Pioneer Preliminaryに基づく環境調査(2019/12/18-2019/12/20)
PreliminaryはMagic Onlineのイベントの1種であり、リーグ同様全5戦のスイスドローではあるが、リーグよりも参加費やプライズの設定値が高く、競技色が強い。
またリーグと異なり成績順でリストが公開されるため、「どんなデッキが多かったか、またその中でどのデッキが勝ったか」を知ることができ、判断材料が多いのがポイント。全5マッチという短さがネックではあるが、毎日開催の日次イベントのため、1日の情報によらず数日に跨りながら継続的に分析を行うことでカバーできると思う。現状はデッキリストも毎日掲載されている。今回の記事では《王冠泥棒、オーコ》禁止以後の2019/12/18~2019/12/20リストを対象に調査。
自身の環境理解ついでに記事を起こした。パイオニアの現状を知る一助として役立ててもらえば幸い。
目次
成績一覧
▼12/18実施
・5-0
緑単ランプ
イゼットフェニックス
・4-1
赤単ミッドレンジ
緑単信心
緑単エルフ(タッチ《群れのシャーマン》)
グルールアグロ
グルールブリッツ
アゾリウスコントロール
アゾリウスコントロール
アゾリウスコントロール
シミック再生
・3-2
黒単アグロ
黒単吸血鬼
赤単アグロ(タッチ《ボロスの魔除け》)
緑単信心
グルールブリッツ
グルールアグロ
グルールアグロ
グルールアグロ
アゾリウスコントロール
アゾリウスコントロール
アゾリウスコントロール
イゼットフェニックス
ボロス人間騎士
ディミーアコントロール
エスパーコントロール
スゥルタイドレッジ
ロータスコンボ
▼12/19実施
・5-0
イゼットハサミ
・4-1
黒単アグロ
赤単アグロ
緑単ランプ
シミックランプ
グルールアグロ
アゾリウスコントロール
・3-2
緑単ランプ
緑単ランプ
緑単ランプ
緑単ランプ
黒単アグロ
グルールブリッツ
グルールアグロ
イゼットハサミ
イゼットフェニックス
アブザンかまど
ティムール潜在能力
グリクシスドレッジ
▼12/20実施
・5-0
イゼットフェニックス
赤単ミッドレンジ
・4-1
白単人間
赤単ミッドレンジ
赤単タッチ黒アグロ
緑単ランプ
緑単ランプ
緑単信心(タッチ青)
ボロスフェザー
オルゾフゾンビラリー
スゥルタイドレッジ
・3-2
黒単アグロ
黒単アグロ
黒単吸血鬼
黒単吸血鬼
緑単ランプ
緑単ランプ
緑単ランプ
緑単信心
イゼットフェニックス
イゼットフェニックス
アゾリウスコントロール
グルールアグロ
ゴルガリ鱗
アブザン昂揚
グリクシスドレッジ
ロータスコンボ
ロータスコンボ
注目デッキ紹介
アゾリウスコントロール
McWinSauce - Pioneer Preliminary(2019/12/18) 4-1 |
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メインボード | サイドボード |
クリーチャー(0) |
4 呪文捕らえ 2 黎明をもたらす者ライラ 2 安らかなる眠り 2 霊気の疾風 3 ドビンの拒否権 1 覆いを割く者、ナーセット 1 神秘の論争 |
《王冠泥棒、オーコ》の時代から対抗馬として十分な力を発揮しており、オーコ退場以後も残存勢力として幅を利かせている。
基本は《至高の評決》のリセット能力を担保に、カウンター・軽量除去を添え、残るスロットは各種プレインズウォーカーとアドバンテージソースに全振り。勝利手段は《ドミナリアの英雄、テフェリー》に《アーデンベイル城》、それに《太陽の勇者、エルズペス》が1枚と、非常にコントロール然としたデッキ。トーナメントの最前線で揉まれ続けたこともあり、デッキの完成度は高い。
スタンダードフォーマットに存在した頃と同様、《ドミナリアの英雄、テフェリー》+2マナ除去の動きは強力で、ゲーム中盤からのマウント能力が異常に高い。プレインズウォーカーも質の高いものばかりが揃っており、中速以降のデッキにすこぶる強く、このデッキが流行ってからミッドレンジデッキは急激にその数を減らしている。
カウンター・全体除去・強力なプレインズウォーカー・ライフ回復とコントロールに必要な要素を一通り兼ね備えており、コントロールフリークにはたまらないデッキ。人気があり、現状このデッキに勝てるかどうかはデッキの価値を見極める上で非常に重要な要素。環境の登竜門的位置付け。
またここ最近の構築面の変化として、《スフィンクスの啓示》の採用率が落ち、《時を越えた探索》に採択が寄り始めている。ライフゲインやアドバンテージ量、必要となるマナの量など各々の利点があり、出始めの時点では分けて採用されることが多かった。
ゲーム後半のプレイでは《スフィンクスの啓示》が優れる場面も存在するが、中盤のアドバンテージ補給、軽さゆえの通しやすさ、アクション数増加の観点で《時を越えた探索》に軍配が上がりやすい。またミラーマッチが増加したことで《覆いを割く者、ナーセット》の上からでもプレイできる点も重要。
グルールアグロ
a_p_s - Pioneer Preliminary(2019/12/18) 4-1 |
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メインボード | サイドボード |
クリーチャー(27) |
2 炉の悪魔 2 漁る軟泥 2 再利用の賢者 2 探索する獣 2 栄光をもたらすもの 2 溶岩コイル 1 丸焼き 2 英雄的介入 |
グルールアグロもまた、前環境からの残存勢力として活躍するデッキ。《王冠泥棒、オーコ》禁止からそれほど時間が経っていないということもあり、前環境時点で完成系が示されたデッキは成果を上げやすい。
概要としては、基本は《エルフの神秘家》《ラノワールのエルフ》の2種8枚のマナクリーチャーから《ゴブリンの熟練扇動者》《軍勢の戦親分》に繋ぐ「8ラブル」デッキであり、そこに《ゴーア族の暴行者》《エンバレスの宝剣》と言った押し込み要素が追加される。
ここ最近は《集合した中隊》が使われる傾向にあり、インスタントタイミングのアクションを手に入れたことでアゾリウスコントロールへの耐性が上がっている。それまでの間は《至高の評決》の前になすすべなく負けることも多かったが、全体除去からのリカバリーとして非常に有効で、マナを浮かせた状態で備えることができれば早急に戦線を再構築することが可能。
基本は直線的なアグロだが、コントロールに有効な多角的脅威、すなわち強力なプレインズウォーカーを有しているため、サイドボードにも強力なカードを用意できる。
ただしメインデッキの《エンバレスの宝剣》もそうだが、有効色アグロのためマナベースが弱く、よく"赤赤"が捻出できずに事故を起こす。1ターン目のマナクリーチャーのために多くの緑マナを要求する背景があり《山》やタップインランドは採用しづらく、環境にアグロデッキも多いので《マナの合流点》も多用は難しい。他の流行デッキと比べた際の不安定さが悩みの種。
緑単ランプ
Oderus Urungus - Pioneer Preliminary(2019/12/18) 5-0 |
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メインボード | サイドボード |
クリーチャー(16) |
3 クルフィックスの狩猟者 1 不屈の追跡者 3 難題の予見者 2 忘却撒き 1 約束された終末、エムラクール 3 霊気のほころび 2 減衰球 |
12/18実施で5-0を達成。
前回の記事で「単色ほど土地からの恩恵を得やすい」と記したが、このデッキはそれを遺憾なく発揮。
《オラーズカの挟門》《爆発域》《ギャレンブリグ城》《ハシェプのオアシス》《光輝の泉》《ウギンの聖域》《見捨てられた神々の神殿》。単色ながらも《森》は7枚のみで、7種20枚のバリューランドを採用している。
ランプデッキは多くの土地とマナブーストによって構成されるため、当然マナフラッドを起こしやすい。ゆえに、バリューランドによってもたらされる恩恵も相対的に大きくなる。このランプに関して言えば"《ギャレンブリグ城》と《見捨てられた神々の神殿》は土地にありながらマナブーストの役割を有している"ため、明確な利点。
構成上最も興味深いのは、序盤のブースト手段を《樹上の草食獣》《ニッサの巡礼》《エルフの再生者》に絞っている点。マナクリーチャーのような相手側の除去の影響を受けやすいブースト手段は採用せず、確実性の高いものを厳選している。最序盤のアクションはこれらに加え最低限の干渉手段である《次元の歪曲》のみに抑え、「高質のアクション」を重視した作り。
序盤は相手盤面にロクに干渉しないため、フィニッシャーは相手脅威に触れることを重視。
2~3回のブーストからフィニッシャーを叩きつけていく。
サイドボードに関して、メインボードはクリーチャー除去がロクに当たらない構成だが、サイドボード後は一転して増える。ランプデッキによくみられる手法だが、相手側のサイドボーディングが難しくなるためベタだが有効。理解した上で除去を続投しても一度は仕事を果たすものが多く、無駄になりづらい。
特にメインボード時点はアグロデッキに対する脆さが際立つため、サイドボード後はタフネス4のブロッカーを連打することで盤面の膠着を狙う。
イゼットフェニックス
Matti - Pioneer Preliminary(2019/12/18) 5-0 |
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メインボード | サイドボード |
クリーチャー(11) |
2 マグマのしぶき 2 ミジウムの迫撃砲 2 丸焼き 3 否認 1 覆いを割く者、ナーセット 3 神秘の論争 2 崇高な工匠、サヒーリ |
12/18、12/20実施で通算2度の5-0を達成。《王冠泥棒、オーコ》存在時のChallengeイベントでも優勝の成績を収めており、ポテンシャルの高さを示している。
クリーチャーのラインナップに関して、メインの勝ち手段である《弧光のフェニックス》に加え、《氷の中の存在》ではなく《若き紅蓮術師》を採用しているのが特徴的。
単体除去に強く、エレメンタルトークンで地上を止めている間に飛行クロックで刺し切る展開がイメージされる。
イゼットフェニックス自体はパイオニア発足当初より存在していたが、なかなか成果が出ないデッキだった。《氷の中の存在》と《弾けるドレイク》を多用したタイプが多かったが、《若き紅蓮術師》タイプになってからはコンスタントに結果を出してきている。このことから、除去を有効にプレイしづらい構成のものが現在のパイオニア環境にマッチしていることが窺い知れる。
スタンダード環境からの進化点として、マナベースも挙げることができる。これは全てのデッキに言える事だが、イゼットフェニックスの場合は下記事情によりそれが顕著。
イゼットフェニックスは1マナのアクションが多数存在するデッキで、《弧光のフェニックス》の効果を発動させるためにカード3枚のプレイが求められ、当然3つの色マナが必要になる。その際基本地形の《島》や《山》、特に後者を引き過ぎている場合3アクションに支障をきたしてしまう事が多く、赤マナを何枚用意するかは悩ましいポイントだった。その他、ドローソースを打って引き当てた土地が逆側の土地で燻ってしまうなど、デッキリストの見た目上ではなかなか見えて来ないような、マナベース上の問題に多く直面していた。
パイオニアフォーマットにおいてはこの問題は大きく改善されており、豊富な2色ランドによって著しく強化されている。フェッチランドが無くともモダンフォーマットと謙遜ない。またモダンには無い《宝船の巡航》が使用できることから、同デッキタイプでこれまでに見たことが無いような粘り強さを発揮できるのも魅力の一つ。
青赤ハサミ
The_nayr - Pioneer Preliminary(2019/12/20) 5-0 |
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メインボード | サイドボード |
クリーチャー(21) |
1 頑固な否認 1 猛火の斉射 2 墓掘りの檻 1 霊気の疾風 1 焙り焼き 2 金属の叱責 2 神秘の論争 1 王家の跡継ぎ 2 霊気圏の収集艇 2 ウルザの後継、カーン |
12/19実施で5-0を達成。
フォーマット発足当初より一部ファンに根強い人気を誇るデッキ。《王冠泥棒、オーコ》の禁止が最も歓迎されたデッキではなかろうか。これまでは2枚がかりで5/5を作り上げても0枚で鹿にされてしまっていたが、今やそんな悲しみとは無縁。
スタンダードフォーマットで活躍した時代から約4年が過ぎ、その間数々のアーティファクト関連カードが登場、このパイオニアフォーマットにおける再現によりそれらを取り込んで飛躍的なパワーアップを遂げた。
《アーティファクトの魂込め》のエンチャント先も優秀なものが増え、もはやデッキ内に《羽ばたき飛行機械》の姿は無い。ブロック不可能力を持つ《ジンジャーブルート》やトランプルを持つ《石とぐろの海蛇》に置き換わり、これらは非エンチャント状態でも一定のスペックが保証される。《羽ばたき飛行機械》はよく何の役割も持たない浮遊物と化していたし、《幽霊火の刃》が付けば戦力になるのはどの脅威も同じことが言える。
対抗色のアグロデッキということで、マナベースの強さも利点として挙げられる。
ダメージランドを含めた2色土地をふんだんに採用できるため、色マナの余裕からデッキに適したバリューランド(《ダークスティールの城砦》《変わり谷》)を多く採用できている。
採用されている2種PWも非常に興味深いカード。
《王家の跡継ぎ》が付与する+2/+0の修正、トランプル付与、ルーティング能力はいずれも完璧にデッキにフィットしており、カラーリングからしてこのデッキのために生まれてきたカードでは無いかとさえ思わされる。
《ウルザの後継、カーン》はサイドボード後の多角的な攻めを実現する上で最適な存在。生み出されるトークンのサイズも期待が持てる。
赤単ミッドレンジ
strong sad - Pioneer Preliminary(2019/12/20) 5-0 |
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メインボード | サイドボード |
クリーチャー(23) |
4 瘡蓋族の狂戦士 2 削剥 2 丸焼き 4 トーモッドの墓所 3 減衰球 |
赤単と聞くとアグロやバーンのイメージが強くなりがちだが、パイオニアフォーマットで今最もホットな赤単はミッドレンジ。《ゴブリンの熟練扇動者》《栄光をもたらすもの》《反逆の先導者、チャンドラ》《エンバレスの宝剣》・・・スタンダードフォーマットで一時代を築いてきた赤いパワーカードが勢揃いしており、赤のオールスターズと言える。(《熱烈の神ハゾレト》は不採用だが、重いカードが多く手札を消化し切れないので流石にデッキにフィットしない。)
単色に染め上げることで、例の如くバリューランドの運用が可能。前回記事から再三言及してきていることだが、それだけ土地から得られる恩恵というのは重要。マジックのデッキの大半が20前後の土地の呪文で構成された同士のデッキをぶつけ合うのに対し、土地部分をアドバンテージ換算できれば構造時点で既にリソースの優位が成り立つ。ライフを攻めるデッキでの《ラムナプの遺跡》と《変わり谷》ともなればその有用性は語るに及ばない。そしてこれらの効力は歴史が証明している。
またこの赤単ミッドレンジに関しては単色であることにもう一つ利点があり、《朱地洞の族長、トーブラン》がそれにあたる。トリプルシンボルというだけであれば2色や3色のデッキでもプレイ自体は可能だが、効果の性質上単色であることにこそ価値が増し、《航空船を強襲する者、カーリ・ゼブ》や《ゴブリンの熟練扇動者》との時代を越えたコラボレーションは一際強力。
赤フリークの人間でもアグロに趣向が寄っている人間の場合今一つ魅力的に思えなかったりするかもしれないが、このデッキはとにかく勝っていて、3大会で3つの入賞が確認されるが5-0・4-1・4-1とアベレージが高い。(2-3以下でもっと負けている場合は確認できないが、それは他のデッキも同様のため割愛)
知名度が低く使用者自体が少ないと予想されるため、今後も注目のデッキ。
総括
《王冠泥棒、オーコ》が禁止されて(Magic Onlineへの適用から)3日しか経っておらず、環境はまだまだ黎明期。オーコの影響があまりにも強かったため、各デッキのポテンシャルやカードの採択は全面的に見直しが加わるもの思われる。
全ての選択肢を紹介し切るのは難しいので注目株に絞ってピックアップしたが、可能性を感じさせるデッキは多く存在しているので、是非自分の目でもリストを見直し、可能性の追求に励んでみてほしい。