パイオニア環境を例とした環境分析
来年2月のプレイヤーズツアー名古屋に向けパイオニアフォーマットを勉強中。
今年一杯は毎週の禁止改定が予告されているが、フォーマットの特色というものは存在するため(後述のマナベースなど)、ノウハウは積んでおくに越したことはない。
今回の記事は、以前「どのように環境分析を行っているのか」といった質問があり、それに応える形。これまでの記事でいくつか「特定環境におけるデッキやカードの選択に関する思考過程」を扱ってきたが、今回は分析の観点に重点をおいた記述を行う。基本は分析から仮説を打ち立て、その検証を行い、成否の内容次第でまた次の仮説検証を行うか、より深く進めていく格好。
パイオニアに関しては現状まだ情報を紐解いている段階で、検証もほんの少し行っている程度に過ぎない。何せ"ヤツ"がまだ環境に居座っているので、本腰を入れるにはやや気が引ける。前述の通り年内は毎週の禁止改定が予告されており、労力を掛け過ぎることはリスク。
ただし、そんな時でも情報収集・分析を欠かしてはならない。本当に大事な場面で正確な判断を下すためには日頃からの訓練で考える頭・選び抜く目を養うことが大切。普段できないことが大事な場面で急にできるようなることはない。何事も日頃の努力がモノを言う。
前振りはこのぐらいにして、本題へ。
マナベースによる環境定義
マナベースは環境を定義する上で非常に重要な要素。極端な話、特殊地形が1枚も環境に存在せず、基本地形5種類しか選択肢が無かった場合、ほとんどの場合単色デッキ、かなり無理をして2色デッキをプレイすることになり、3色以上のデッキはもっての外。
逆に特殊土地の選択肢が非常に豊富な場合は3色から4色のデッキ構築が現実的なものとなり、例えば少し前のスタンダード環境(『イクサラン』~『基本セット2020』)などはギルドランド・チェックランド・占術ランドとマナ基盤が屈強で、環境終期は4色ケシスがトーナメントシーンを席捲した。
ケシスコンボ 小林 遼平 - 日本選手権2019優勝 |
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メインボード(60) | サイドボード |
クリーチャー(17) |
2 クルーグの災い魔、トラクソス 2 黎明をもたらす者ライラ 2 害悪な掌握 2 漂流自我 1 夢を引き裂く者、アショク 2 ゴルガリの女王、ヴラスカ 2 ウルザの殲滅破 1 戦慄衆の指揮 |
更に時代を遡れば『タルキール覇王譚』ブロック+『戦乱のゼンディカー』ブロックで誕生したフェッチランド+バトルランドのマナベースは"歴代スタンダード史上最強のマナベース"とも謳われ、3色はもちろん、「3色デッキを構築したつもりが4色目も勝手に出ていた」という衝撃的な事象をも生み出した。
ダークジェスカイ Jon Finkel - プロツアー『戦乱のゼンディカー』トップ4 |
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メインボード(60) | サイドボード |
クリーチャー(14) |
1 竜使いののけ者 3 アラシンの僧侶 1 フェリダーの仔 2 強迫 3 軽蔑的な一撃 1 焙り焼き 2 光輝の炎 2 影響力の行使 |
これはひとえにフェッチランドの織り成す技であり、フェッチランドを軸としたマナ基盤は下環境、モダンひいてはヴィンテージ環境でも用いられる最強のマナベースであり、多色化を全く問題としない。(《不毛の大地》や《血染めの月》など外的要因によって妨げられるケースは存在するが、可否の上では問題とならない)
パイオニアにおいても、ギルドランドとの組み合わせで容易な多色化を実現するフェッチランドはフォーマット発足当初より禁止指定を受けている。誰しもが納得の判断で、話題にすらならなかったように記憶している。
とは言え、パイオニアのカードプールは約7年分、30セット近くのエキスパンションから構成される。少なくとも3セットに1度は特殊地形サイクルが収録されることを考えると、フェッチランドを除いても十分強力なマナベースを構築できるように思えてならないが、実際のところはスタンダードフォーマットとそれほど差がない。
パイオニアフォーマットにおけるプレイアブルな2色土地は以下の通り。
全カラーリング:ギルドランド、チェックランド、占術ランド
有効色のみ:シャドウランド
敵対色のみ:ファストランド、ダメージランド、ミシュラランド
5色ランド
前述したスタンダード環境(『イクサラン』~『基本セット2020』)がこのマナベースに最も近く、ギルドランド+チェックランド+数枚の基本地形で構成されるのが標準的。
パイオニアの場合ここにファストランドやダメージランドが加わるが、これらはチェックランドとの噛み合いが悪く、単純な強化ではない。《内陸の湾港》2枚に《植物の聖域》2枚のような手札が来た場合は絶望的な展開となる。3色デッキは十分構築可能だが、万全とは言い難く、4色以上は一気にリスクが膨れ上がる。
一方で、2色デッキの場合は上記スタンダード環境の完全上位互換と言える。特筆すべきは対抗色の組み合わせの強さで、ファストランドの存在が大きく、ダメージランドも数枚であればダメージもそれほど気にならず、アンタップイン計算できる2色ランドはデッキをデザインする上で頼もしい限り。
逆に、これらが存在しない有効色のカラーリングはマナベースが非常に劣悪で、追加で扱うことができるのはシャドウランドのみ。この土地は「歴代の2色土地の中でも最弱」と名高く、トップデックしたタイミングでタップインしてしまうのが致命的。特にアグロデッキではこのラグがゲーム展開に決定的な影響をもたらすことも多い。
最後に単色デッキに関して。
単色ゆえマナベースもクソも無いのではと思われるかもしれないが、そうではない。単色ゆえに取るのことのできるバリューがあり、能力土地がそれに該当する。
もちろんこれらは多色デッキでも扱うことができ、既にいくつか実績を持つものも存在するが、単色デッキでは更にその扱いが容易になる。
特に《変わり谷》はその性質も相まって単色アグロでは一気に価値を増し、時には人間、時には吸血鬼、ゾンビとなって対戦相手に襲い掛かる。
以上のことから、広大なカードプールを持つものの、色を絞れば絞るほど土地からの恩恵を受けやすいのが現在の印象。
単色>敵対2色>有効2色=敵対3色>有効3色>4色以上の順でマナベース面での強さが発揮されていくと感じている。
この考えは直近の結果からも実証されさていると思う。
MOPTQ結果(2019/12/06実施)
1位 アゾリウスコントロール
2位 黒単吸血鬼
3位 スゥルタイフード
4位 シミックアグロ
5位 アゾリウスコントロール
6位 緑単信心
7位 青単アグロ
8位 シミックアグロ
MOPTQ結果(2019/12/07実施)
1位 シミックミッドレンジ
2位 黒単アグロ
3位 シミックミッドレンジ
4位 シミックミッドレンジ
5位 黒単吸血鬼
6位 アゾリウスコントロール
7位 グルールアグロ
8位 イゼットフェニックス
※シミックミッドレンジとシミックアグロの差異
前者は《世界を揺るがす者、ニッサ》から《ハイドロイド混成体》に繋ぐ動きを主軸に据えたもので、後者は《鉄葉のチャンピオン》《探索する獣》《頑固な否認》を搭載し、早期フィニッシュを見据えたもの。
よく「シミックフード」と呼称され、最悪の場合一括りにされたりしているが、狙いが異なるので別個の名称を強く推す。フードギミックはシミックカラーであれば大体の場合入っているので、デッキ名として適切ではない。"シミックラノワールのエルフ"のようなものだと思っている。
2大会合わせて上位16デッキ中、3色以上のカラーリングは1デッキのみ。
黒単を筆頭とした単色アグロが一定数存在しており、ライフを攻めるコンセプトが環境上位に組み込まれている以上、3色デッキを構築する上での「ギルドランドの多用」は明確なデメリット。(タップインでダメージ量を抑えてもテンポで後れを取り押し込まれるので同様)
7年30エキスパンションという括りの中でも、フェッチランドの禁止で窮屈さを強いられているマナベースに対し、スペルだけは潤沢に存在するので単色~2色のアグロデッキでも十分にカードパワーが高いのがパイオニアフォーマットの特徴と言える。わざわざ多色化せずとも十分に強力な呪文をプレイすることができ、逆に多色化することでタップインやダメージと言った損失分アグロデッキに対する脆さが際立ってしまう。
トレンドによる環境分析
MOPTQの結果をベースに調査。
リーグ5-0リストはWizardsが選んで掲載しているので、「興味をそそられるデッキ」や「特定デッキにおけるアイデア」を探すには良いが、「強いデッキ」や「流行」を調査するのには不向き。競技レベルのトーナメントに向けた準備を行うには、競技レベルのトーナメントの動向を探るしかない。これにはPTQやChallengeイベントが最適。
また、各デッキのスコアは非常に重要な要素。5-0という同一のラインでは優劣が付け難く、ラウンド数も少ない。複数回の5-0には価値があるが、リスト掲載ではその判断が難しい。上記競技イベントの結果はその点でも重宝する。
ただし「トップ32に○○デッキが10人」と言ったようなカウントは危険。8-0デッキと5-3デッキには大きな違いがあるので、スコア毎にきちんと分けて分析すべき。20位~30位ぐらいのデッキは「その大会の勝ち組デッキに勝てなかったデッキ群」とも言えるので、同じ入賞デッキでも価値が全く異なってくる。
注意点としては、20位~30位デッキでもトップ16(トップ8~バブル負けライン)に多いデッキなら問題が無く、むしろ加点要素。逆にトップ16ラインに全くいないが、20位~30位に沢山いるようなデッキは入賞ラインとは言え減点対象となる。
これらを踏まえ、先に紹介したMOPTQの結果を分析。
※以下全て予選ラウンドの成績
▼2019/12/06
・8-0
1 スゥルタイミッドレンジ
・7-1(2位~7位)
1 青単アグロ
1 黒単吸血鬼
1 緑単信心
1 シミックアグロ
2 アゾリウスコントロール
・6-2(8位~25位)
1 白単人間
3 黒単吸血鬼
1 赤単スライ
1 赤単バーン(タッチ白《ボロスの魔除け》)
1 緑単信心
4 シミックアグロ
2 シミックミッドレンジ
1 シミックネクサス
1 アゾリウススピリット
1 イゼットフェニックス
1 バントコントロール
1 スゥルタイミッドレンジ
・5-3(26位~32位)
1 青単アグロ
2 黒単吸血鬼
2 緑単ランプ
1 シミックアグロ
1 エスパーコントロール
2019/12/07
・8-1(1位~5位)
2 黒単吸血鬼
2 シミックミッドレンジ
・7-2(6位~19位)
5 シミックミッドレンジ
3 シミックアグロ
1 アゾリウスコントロール
2 グルールアグロ
1 イゼットフェニックス
1 スゥルタイミッドレンジ
1 ジャンド魂剥ぎ
・6-3(20位~32位)
1 白単人間
1 青単アグロ
1 黒単吸血鬼
2 シミックアグロ
2 シミックミッドレンジ
1 アゾリウスコントロール
1 ゴルガリ鱗
1 オルゾフゾンビラリー
1 ロータスコンボ
1 スゥルタイミッドレンジ
1 スゥルタイドレッジ
基本は前述したような単色~2色のデッキが好成績を収めているが、例外として、スゥルタイミッドレンジは悪くないスコアを持続。12/6実施分に関しては8勝0敗を記録している。
スゥルタイミッドレンジ sokos13 - Magic Online PTQ(2019/12/06) 3位 |
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メインボード(60) | サイドボード |
クリーチャー(17) |
1 漁る軟泥 1 不屈の追跡者 1 ゲトの裏切り者、カリタス 1 龍王シルムガル 3 軽蔑的な一撃 1 集団的蛮行 2 害悪な掌握 2 神秘の論争 2 衰滅 1 ビビアン・リード |
これは3色デッキの中でも「対抗色の組み合わせである都合マナベースが比較的強い」部類にあり、「フードギミックを始め、メインデッキの呪文採択がアグロに寄っている」ことが大きいと考えられる。
・《金のガチョウ》《意地悪な狼》《王冠泥棒、オーコ》
言わずと知れた対アグロ耐性ギミック。
《意地悪な狼》が地上ビートを遮断し、盤面が落ち着けば《金のガチョウ》と《王冠泥棒、オーコ》がライフ回復に回る。
・《致命的な一押し》《突然の衰微》
低マナ除去も充実。総じて、土地によるテンポ・ダメージの損失を呪文で補っている格好。この成功例から鑑みるに、3色以上のデッキ構築には「メインデッキ時点で高いアグロ耐性」を求められていることがわかる。
言うまでもないことだが、現在のパイオニア環境は《王冠泥棒、オーコ》が頭一つ抜けた力を発揮しており、上位入賞率もこれを用いたデッキが圧倒的に高い。またオーコを使うデッキの中でもバリエーションが生まれづらいのは前述したマナベースの弱さと密接な関係があるものと考えられ、3色以上のカラーバリエーションは環境的な優位性を見出しづらい。
唯一台頭した3色デッキはスゥルタイで、そして黒単色のビートダウンデッキが結果を残し続けている点から、《致命的な一押し》は現環境で注目の1枚に挙げられる。
ただしこれを使ったコントロールデッキ(青黒やエスパー)の台頭が見られない点から、単に除去するだけでは大した利点にならず、除去を行ったのち速やかに自身の勝利条件(ビートダウン(黒単)、オーコマウント(スゥルタイ))にゲームを運ぶ必要があるというのが環境の要件だ。
メインボード時点でそうした単体除去の価値が高まっていくのであれば、アゾリウスコントロールの台頭にも頷ける。
アゾリウスコントロール duparcqG - Magic Online PTQ(2019/12/06) 優勝 |
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メインボード(60) | サイドボード |
クリーチャー(0) |
3 ニクス毛の雄羊 2 黎明をもたらす者ライラ 2 払拭 2 真髄の針 3 安らかなる眠り 2 ドビンの拒否権 1 残骸の漂着 |
同デッキは2大会でトップ8に3名を輩出しており、明らかに勝っているデッキ。とは言えシミックデッキや黒単とはデッキの角度が違い過ぎる都合「異なる優位性」が存在していることを考慮すべき。
パイオニア発足当初からコントロールデッキは非常に辛い立場に立たされており、その要因として、コントロールに強いパワーカードが多かったことが挙げられる。《夏の帳》《密輸人の回転翼機》《死者の原野》がこれにあたり、対処が困難かつ致命的。「対応できなければ死ぬしかない」レベルのカードが多く存在していたが、度重なる禁止改定によりそれらの脅威は姿を消し、ようやくコントロールの出番が回ってきたように思える。
ひとえにコントロールと言っても、それこそ前述した《致命的な一押し》を用いることのできる黒系のコントロールではなく白系のコントロールであるアゾリウスが勝っていることに関しては、《至高の評決》の有無が重要だと考えられる。
《致命的な一押し》は「黒単のアグロ戦略」や「スゥルタイの自身の《王冠泥棒、オーコ》を押し付けるテンポ面」で長け、"短いゲームレンジ"の上では有効だが、コントロール戦略には合致しない。これには「フェッチランド禁止による中盤以降の除去性能の不安定さ」も影響。
また環境トップを走る、倒すべき敵であるシミックデッキが青を使ったデッキという点も重要で、これらはサイドボード後にカウンター呪文をプレイすることが可能。アグロバージョンに関してはメインデッキから《頑固な否認》をプレイしてくる。黒いコントロールデッキの《衰滅》や《煤の儀式》のような全体除去は成就しない可能性が高いが、一方でアゾリウスは《至高の評決》をプレイできるため、カウンターによる懸念が無く、余裕を持った対処が可能。
直近のトーナメントシーンをまとめるのであれば、レイヤー1に「"王者"《王冠泥棒、オーコ》」があり、その対抗馬としてレイヤー2の「《致命的な一押し》を交えたテンポ戦略」、さらにその上位のレイヤー3に「《至高の評決》によるコントロール戦略」が座する形。後発のデッキはこうした事情を理解した上で優位性を考慮していく必要があるだろう。
総括
現在のパイオニアフォーマットを俯瞰し、感じたことを書き出した。
僕は普段こうした観点で情報を整理している。練習に取り組むにしても「何をどういった理由で試すか」が重要だと思っていて、瞬間的な正解デッキを選ぶことも大切だが、「どうやって選んだか」も同じかそれ以上に大切だと考えている。以前公開した有料記事にも記したが「プレイヤーとしての成長」にこそ意義があると思っていて、これも「普遍的な技術を身に付けること」の一環である。
特に現状は目まぐるしい禁止改定の渦中にあり直近での勝利にあまり意味が無いので、思考に重きを置く方が生産的。オーコ以外のデッキがなぜ勝っているのかを理解しておけば、仮にオーコが禁止の裁定を受けた場合も次に着手すべきデッキを考える材料になるし、もっと後のマジックに対する取り組みそのものに生きてくる。