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続きそうだったらなんか考える

ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019 リミテッド編

前回のスタンダード編に続き、ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019のイベントレポートを掲載。今回はリミテッド編をお届けする。

 

始めに言っておくが、僕はリミテッドが下手だ。日本のプロプレイヤーの中でリミテッダーランキングを設定した場合、最下位は僕だろう。
これは誇張表現ではなく実績に基づいたもので、例えばプロツアーのドラフトラウンドを4-2以上で終えたことは1度も無いし、3-0はしたことがなく、0-3は2回ある。
いつかのブレイクスルーを夢見て普段からの打ち込みは欠かさないようにしているが、未だ打破には至っていない。

 

課題はわかっている。単純にプレイが拙い部分もあるが、それだけでは説明がつかないこともある。ハイレベルな練習環境、例えば日本のトッププレイヤー達と卓を囲んだりする際も勝率はそれほど悪くないし、同じぐらいの勝率の人間がプロツアーで4-2以上のスコアは残すことは珍しくない。
僕の場合、対応力が低いのだ。プロツアーでは普段全く接点のないプレイヤー達と卓を囲む事になる訳だが、そこには自分が思うカード評価とのズレや、流行の違い、見知らぬ戦略、それに紐づく様々な意図が入り乱れており、経験したことのないカードの流れが発生する。即興性とでもいうか、そうした普段と異なる状況下に陥った際のアドリブ力に難がある。
僕は練習タイプの人間で、特定の課題に対する正解アプローチ、解決力には自信があり、構築フォーマットではその点が評価されているが、不確定要素の多いリミテッドではその能力が活かしづらい。

 

ちなみに、「知らないプレイヤーと卓を囲む機会ぐらいいくらでもあるだろう」と思われるかもしれないが、プロツアーはレベルが違う。アーキタイプの強弱に対する理解度、強アーキタイプ参入への積極性、上下家のカットなどに差があり、端的に言えば「簡単にいかない」ことが多い。グランプリやショップトーナメントレベルのドラフトであれば、カードの流れがザル過ぎてデッキが恐ろしいほど強くなることもあるが、プロツアーではそういったことはほとんど起きない。特に近年の「新セット発売5週間後PT」では参加者各人一定ラインの練習は積んできているので、知識によるアドバンテージは見込めなくなってきている。
グランプリ2日目のドラフトは上位卓でさえ「2日目進出が目標で、シールドしか練習して来なかったから、ドラフトは全然です」というようなプレイヤーが座っていたりすることもあるが、プロツアーではドラフトをプレイすることが前提としてあるので、誰だって練習はしてくる。


前置きが長くなったが、僕の現状の立ち位置はここまでにある通りだ。リミテッドはマジックの基礎の上に成り立ちながらも奥深く、一朝一夕の成長が見込めるものではない。計画立て、結果を鑑み反省し、次に繋げることが大事だと認識している。恥を忍んで己を曝け出しこうして書き起こすのも、未来に向けての行動だ。

 

そういう訳で、今回の取り組みに関する話をしていこうと思う。

 

準備

まずプレリリース週、普段マジックやそれ以外の遊びも共にする友人らと、予約特典ボックスを使って先行ドラフトを嗜んだ。カードの使用感を掴む意味合いもあったが、単純に新セットに触れ楽しむことを第一とした。競技としての側面を持つ一方で、やはり友人たちとのドラフトは楽しい。マジックは触れ方次第で無限の楽しみを提供してくれる。


次に発売週、チーム豚小屋主催のドラキチ合宿に参加させていただいた。

jspeed.hatenablog.com

普段交流の無かった面々と卓を囲み、多様な価値観を得た。ノウハウが溜まり、前週に比べ視野が飛躍的に広がった。先の友人らは新セットが出ればそれを適度に楽しむ程度の言わばカジュアル層だが、彼らは"ドラキチ"を名乗るだけあり、日常的にリミテッドを嗜んでいる。本人ら曰く「グランプリのような明確な目標が無くとも無駄にやり込む」ことをモットーとしているらしい。実際この『ラヴニカの献身』を用いた国内の大規模リミテッド大会は存在しないが、特に気に留めることではないようだ。

 

そしてその翌週、Cygames様主催のCygames合宿に参加。

jspeed.hatenablog.com

日本のトップオブトップが一堂に会する非常にハイレベルな練習フィールドで、先2週の経験があった上でコテンパンにされた。勝率は60%弱。ちなみに、僕のリミテッドは下手だとは言っても平凡以上はあると自覚していて、一応リミテッドGPでトップ8に入ったこともあるし、日本選手権やグランプリでのドラフトならそれなりの勝率がある。問題は、強者に勝てないことだ。際どいシチュエーションになると大体負ける。


本番前の3日間は同じく早期現入りした日本人7名(市川ユウキ、覚前輝也、渡辺雄也、行弘賢、高尾翔太、宇都宮巧、川崎彗太)と毎朝9時にドラフトを行った。

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これは本番のドラフトが開始されるのと同じ時間設定で、現地時間にコンディションを合わせることを目的としている。この時のドラフトは3-0、1-2、0-3、3-0で勝率は60%弱。

 

以上のように、今回は一定周期で集中的な取り組みを行った。これまでの経験から、ドラフトにもメタゲームがあることがわかっている。どのカードが強いとか、どのカラーリングが強いとか、そういった認識が広まる毎に色の人気・不人気が生まれ、それによって卓の混雑状況やカード評価が相対的に変化する。段階的に実践を繰り返すことで、その差異を感じ取りながら自分の中に落とし込み、理解を深めていこうと考えた。

 

事前戦略

基本は"何でもやる"スタンスだ。調整メンバーの中には「基本はオルゾフに向かいたい」「緑だけは絶対にやらない」「不人気だからこそ逆に緑をやりたい」などの意志を持つ人間もいたが、個人的にはポジション取りこそがこのギルドドラフトの大前提だと思っているので、大きな失敗をしないためにも流れには従順であるべきだと考えている。ただし一つだけ、「門デッキ」のアーキタイプだけは積極性を下げようと思っていた。

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門デッキはその性質上、各種ギルド門の点数が非常に重要で、仮に卓を囲む各人のギルド門の点数が高いと成立しづらい。それは各人の環境に対するマナベースやタッチへの関心次第であり、初めて会う人間の度合いなど知りようが無い。
また同デッキは卓に一人が限界のアーキタイプで、門から優先してピックしていった際、1順以内で門が消えていて"同業者"の存在を確認した時の絶望感は壮絶なものである。MTG Arenaでは一時期門ピックが大流行していたので、ノウハウとしても広く知られている可能性が高い。総じてリスクのある選択だと思った。
その他、プロツアーのプレイヤーはカットの志向が若干強めだと感じているので、多色受けによるパワーカード待ちもそれほど期待値は高くないと感じる。


1stドラフト

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1stドラフトは日本人2人と同卓。他に著名なプレイヤーはいないので、比較的優しめのポッドだ。

 

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1-1は《研究室の守護者》で、1-2で《トロール種の守護者》。緑は固めたい立ち上がりで、かつこの2手の間にマルドゥカラーのカードを潤沢に流していたので、そこへは向かわないことを決めた。反対色の緑系、グルールかシミックの天秤でドラフトを進めることに。1-3・1-4はパッとしないパックで、マルドゥカラーの微妙なカードに手を出して下家を混乱させるよりは、と住み分けを意識して《円環技師》を連続ピック。あまり好きなカードでは無いが、緑の意志は伝えておきたい。マルドゥと反対位置のシミックは可能な限り優先させたいギルドなので、返しを強めたい意志もあった。

 

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1-5で《激情のエイリンクス》をピックしグルールへのシフトも検討するが、後が続かず。結局その後は《思考崩壊》や《応用生術》のようなシミックのカードが続いた。カードパワーで言えばグルールだが、後半手の巡りを考えればシミック寄せがベターか。

 

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そんな思惑とは裏腹に、返しの2パック目はグルールカードの嵐。《猪の祟神の炎》や《グルールの呪文砕き》のようなカードが中盤手で押し寄せ、一方でシミックのカードは見当たらない。あれだけ絞ったにも関わらず下家にシミックがいるか、単に出が悪いだけか。色の絞りは返しが報われなかった時本当に虚しい。
なんにせよギルド替えか多色化を余儀なくされ、中間的なピックを行って2パック目を消化。プレイアブルカードの枚数的にシミックタッチ赤の路線でしかデッキにならなそうだったので、3パック目で中速のミッドレンジデッキにまとめ上げてドラフトが終了。

 

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《エリマキ神秘家》の関係で《山》を入れたくはないが、赤いカードもそれなりの数タッチしなければデッキパワーを担保できない状態。こういう状況ではギルド門が《シミックのギルド門》に寄ってしまっているのが残念。《グルールのギルド門》は1枚も見なかった。《賢者街の学者》の占術能力で赤マナを探しに行く方針を立てた。
またどう構築しても極端に早い相手には太刀打ちできそうになかったので、せめて遅いデッキ同士の対戦は有利に進めようと《詮索の目》をメイン採用にした。


【1stドラフト対戦結果】

R1 ラクドス・タッチ白 ×○×
R2 ラクドス・タッチ白 ○×○
R3 シミック井上徹) ○×○

 

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2戦続けて下家方面のプレイヤーと対戦。マルドゥカラーの混雑が予想されるパックを流していたので、2人ともデッキがグチャっていた。
しかしR1のプレイヤーから3ゲーム連続で《騒乱の落とし子》を3ターン目にプレイされ、流石に対処しきれず敗北。
R2は《ギルドパクトの秘本》をフィーチャーした構築で1ゲームはそれでブン回られたが、単純なアドバンテージゲームならカウンターとドローの多いこちらも望むところだ。マッチ全体を通しては優位に立ち回ることができた。
R3はBIG MAGICプロの井上徹シミックの同系戦。同じミッドレンジデッキ同士での対決になったが、僕の構成の方が若干重く、6マナのカードを次々と叩きつけて勝利。《詮索の目》が輝いた。

 

2-1。

回るかどうかすら怪しいリスキーなデッキだったので、満足の行く結果だ。早いアグロデッキと2度以上マッチングすればそれだけで終わっていた可能性もあるので、幸運とも言える。

 

2ndドラフト

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2ndドラフトは海外の名立たる強豪5名と同卓。

 

Tomas Enevoldsen プラチナレベルプロ

Goncalo Pinto プラチナレベルプロ

Matthew Nass プラチナレベルプロ

Jelger Wiegersma 殿堂

Raphael Levy 殿堂

 

凄まじい卓に放り込まれたものだ。まるで獣の檻のようだ。

 

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1-1は《災いの歌姫、ジュディス》。文句なしの強レアでのスタートとなるが、同パックに《ハックロバット》があり、他に大した候補が無かったことから、この後のピックで絞り切れなければ下家とのラクドス被りが懸念された。そしてその懸念は現実的なものとなり、以降のパックには常に2枚以上ラクドスのカードが含まれていた。かつカードのランクはそこまで落ちず、必ず《焦印》クラスのカードが流れることから、色を絞り切るのは不可能と判断。《欲深いスラル》を摘みマルドゥカラーの多色デッキをドラフトする方針に定めた。

 

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しかし返しの2パック目では覚悟していたこととは言え予想以上にマルドゥカラーのカードが返ってこず、収穫はほぼ0。ほとんど1パック目と3パック目のカードだけでデッキを構築するハメになり、希望するミッドレンジデッキには仕上がらず。アグロなのかコントロールのかよくわからない中途半端なだけのデッキになってしまった。

 

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出ているカード的にはアグロに構築できれば3-0もあり得そうな流れだったのだが、いかんせん1パック目で感じさせた下被りの予感が現実のものとなってしまい、2パック目では本当にカードが取れなかった。重いデッキでは《舞台照らし》もプレイタイミングがシビアで、見た目からプレイまで何もかもが歪になってしまう。単純にバッドデッキだ。

 

【2ndドラフト対戦結果】

R9 オルゾフ(Tomas Enevoldsen) ××
R10 グルール ○○
R11 アゾリウス(Goncalo Pinto) ××

 

R9のTomas Enevoldsenのオルゾフは弱いカードがデッキに大量に入っており、《第10管区の古参兵》を《ハズダーの士官》で強化して攻撃してきた時は「これは勝ったか?」と思わせる程だったが、他の部分には強力なカードが詰まっており、カードパワーの差を覆せず押し切られてしまった。

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勝利を予感させる環境屈指の弱ムーブだったが、残りのカードは強く結局そのまま3-0していた

R10のグルールは恐らく卓1のデッキだったものの、参入動機を見出せないほど大したカードが流れていなかったので、仕上がりは並以下の印象。互いのカードを順々にぶつけ合った結果、気付けば勝っていた。
R11のアゾリウスは《拘引者の忠告》が4枚入っており、3マナ以上のクリーチャーが主力の僕のデッキにとってはこのテンポ差が命取りになった。チャンスのある盤面を作り出したものの、3枚目のバウンスから4枚目をトップデッキされる大逆転劇で敗北。

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カード1枚を争う場面ではトップデックが強過ぎる1枚

 

1-2。
卓のメンツ、自身のデッキを踏まえれば妥当なところだろうか。惜しかったゲームもこちらの回りが良かっただけで、デッキの力としては負けているなと感じた。
また3マッチ6ゲームを通して《災いの歌姫、ジュディス》は1度も引くことができず、せっかくの強レアはただの飾りになった。プレイできていればひっくり返せそうなゲームは多かったので、この点は残念だ。

 

振り返り

2回のドラフトを合わせて、3-3。
取り組み方を変え、実践数も増やし、より多くの時間をドラフトに費やしたが、普段と変わらずの結果だった。
大枠で考えれば、前進が無かった訳ではない。自分なりに環境を考慮し、取り組みに工夫を取り入れ、学習にも積極性を示した。このブログで行っていたようにアウトプットのタイミングを設け思考を整理し、次の取り組みにおける課題を明確化したり、兎角本番に向け有意義な練習を行えるように尽くしてきた。そうして得た経験やノウハウは無駄にはならない。次回以降はより効率的な取り組みが行えるはずだ。

 

だが、いつまでも「次」がある訳ではない。冒頭で「未来に向けた行動」だと述べたが、その未来にも限りが見え始めた。
今年度になり、マジックプロシーンは諸々の変革が打ち出された。その中に含まれる「プロレベルの廃止」は唐突ながらも僕にタイムリミットを突き付けている。
僕の当面の目標は「ゴールドレベルを維持し、プロツアーに継続参戦しながら、ハイレベルな環境で経験値を培い、トップに通用する力を身に付けること」だった。だがプロレベルの廃止が明示された以上、挑戦の機会はいつまでも保証されている訳ではない。
これまでずっと先を見据えての行動を取ってきたが、目先の結果を求められるようになってしまった。


口にするのも恥ずかしいような、大それた目標、願望がある。だがその達成にはまだ力が足りないことを痛いほど感じ取っていた。今回で10度目のプロツアー参加となるが、自分の立ち位置やポテンシャルを理解するには十分過ぎる数だった。
誰だって、好きで下手を務めている訳ではない。強くなりたい上手くなりたい、彼らのようでありたいと、心から願っている。

 

参加が確定しているミシックチャンピオンシップは後2回。無駄にできるチャンスなど1度も無いのだという事を今一度己に言い聞かせ、全力の取り組みを心掛けたいと思う。