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続きそうだったらなんか考える

ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019 スタンダード編

ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019に参加。
今大会もチーム武蔵の面々と調整を行い、本番に備えた。今回はスタンダードに絞って記述。リミテッドに関するレポートは後日アップする。
構築に関する記述だが、僕は今回ほとんどの時間をあるデッキに費やした。今回はその調整録がメインになる。

 

準備

調整グループのメンバーに関しては下記記事参照。

mtg-jp.com

今回はここにBIGs・川崎慧太を加えた12名で調整を開始。川崎氏は知る人ぞ知る"BGマスター"で、今大会の権利もモダンの「黒緑ミッドレンジ」で獲得している。僕の知る限り、彼は過去3度BGでプロツアー権利を獲得しており、信頼のおけるマスターだ。
彼には普段武蔵グループ内で空きがちな緑系ミッドレンジの調整を推し進める役割が期待され、実際「スゥルタイ・ミッドレンジ」は主に彼の手で調整が施された。前回の『ラブニカのギルド』環境における「黒緑ミッドレンジ」はチーム内の着手が浅かったのを見て僕が手掛けたが、今回このポジションに彼が収まったことで、僕はまた別の役割に回れるようになった。
武蔵グループの調整はスプレッドシートでデータ管理されている。データを俯瞰的に観察し、その中で着手が浅く、可能性がありそうだった「ネクサス」系列のデッキを担当することに決めた。

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武蔵メンツにこの手のデッキを好む人間は少ない

時を同じくして開催された「ミシックチャンピオンシップ・ロンドン2019地域予選」ではタイミング良く「バント・ネクサス」が同予選を突破し、手始めにこのリストから調整をスタートすることにした。

ネクサス系列のデッキはプレイ経験が全くなく、初めは淡々とプレイ数を重ねていたのだが、ノウハウが溜まるにつれ同デッキが抱える問題点に気が付き始めた。その最たるは"マナベース"だ。

 

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同デッキは土地周りで2つの問題点を抱えている。1つはギルドランド多用によるライフ損失の発生。
アグロデッキ相手には《根の罠》で延命を図りながらコンボ達成に向け動いていくのが基本的な動きになるが、このデッキのライフ損失は《根の罠》のプレイタイミングを早めてしまう問題がある。たった2点と甘く見てはいけない。白単相手にライフを18でスタートした場合、相手が《不屈の護衛》⇒《アダントの尖兵》⇒《ベナリアの軍司令》と動けば続くターンではもう《根の罠》のプレイを要求される。《薬術師の眼識》をプレイする暇すらない。それはコンボパーツを集める余裕が無いことを意味する。

 

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2つ目はM10ランドの多用によるタップイン事故の発生。
ギルドランドないし基本地形と合わせてバランス良く引くことができれば屈指の性能を誇るM10ランドも、そればかりが押し寄せてしまうと酷い事故を引き起こす。1ターン目から延々とタップインを繰り返し、常に後手後手の展開を招く。コンボデッキにおけるタップイン事故は死活問題で、1ターンの差がコンボの成否を分けてしまう展開は多い。ドローソースをプレイできる回数や、コンボに突入するために十分なマナの数を担保できるかはゲーム勝敗に強く影響する。

 

以上の事から、「バント・ネクサス」は"自分との戦いで勝手に負けてしまう"ことが多かった。3色のカードを潤沢に使えることは主にサイドボード後の戦いで有用だったが、安定感が低い。コンボデッキの割には1ゲーム目を落としやすく、その状態で相手のメタが強くなるサイドボード後の戦いを2本行うのは厳しかった。

 

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前環境では《楽園の贈り物》と合わせてコンボの核だった《ドミナリアの英雄、テフェリー》も《荒野の再生》にその立場を追われ、「バント・ネクサス」においては2枚程度しか採用されていないことがある。その上でメインボードにはこれだけしか白いカードが採用されていない構築も多数見られる。多色化の意味とは一体なんだろうか?

 

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一方で、《荒野の再生》のカードパワーは疑いようがなく、特に《成長のらせん》⇒《荒野の再生》&《薬術師の眼識》のブン回りは目を見張るものがある。そしてこの動きを取る上で3色目の必要性は無く、むしろ要所でアンタップインを求められる都合2色の方が好ましい。
環境初期にAli AintraziがSCG Classicでトップ4に入賞した「シミック・ネクサス」のリストを発掘し、同リストから調整を再スタートした。

 

クリーチャー(7)
4 エリマキ神秘家
3 ハイドロイド混成体

スペル(28)
3 アズカンタの探索
3 一瞬
4 根の罠
4 成長のらせん
4 薬術師の眼識
4 荒野の再生
2 予知覚
4 運命のきずな

ランド(25)
4 島
6 森
4 繁殖池
4 内陸の湾港
4 天才の記念像
2 シミックのギルド門
1 オラーズカの挟門

サイドボード
2 殺戮の暴君
1 原初の潮流、ネザール
3 ペラッカのワーム
3 鋭射手の斉射
4 否認
1 集団強制
1 不滅の太陽

引用:

www.starcitygames.com

 

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純正2色の構築は《エリマキ神秘家》と《天才の記念像》の採用が特徴的で、どちらも2色のマナベースが許す特権だ。3色デッキでの運用はままならない。
ただし実際にプレイしてみると《エリマキ神秘家》のクアトロシンボルは2色デッキでさえ運用が困難で、よく事故を起こした。また相手の腐らせていた除去が当たるのでブロッカーとしての役割を果たすことも無く、感想は"プレイしづらいだけのカウンター"。調整メンバーにも「デッキに入れる意味は全くないカード」と報告した。

とは言え環境に「エスパー・コントロール」や「青単」と言ったカウンターデッキが存在する以上、メインボード時点で少量のカウンターが存在していることは望ましく、その点で《否認》を採用してみたが、汎用性の低さから手札内容が薄くなってしまうことを懸念していた。

 

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市川ユウキ提案の《悪意ある妨害》は明確にデッキをネクストレベルに進めた1枚で、今回の調整過程で最もイノベーションを感じさせたポイントだ。《否認》と異なりひとまずのプレイが可能で、諜報能力により必要なパーツを探しに行ける。クリーチャーをカウンターすることで相手側のクロックを遅らせ《根の罠》のプレイターンをズラすことができる他、《アズカンタの探索》の変身を早めるなど、デッキの動きに完璧にマッチしている。チューナーとしての才覚はこうした点で如実に表れる。流石だ。

 

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元リストでは不採用だった《選択》もデッキのレベルを一段階先に進めた1枚であることに違いない。《荒野の再生》という特定のキーカードに依存したデッキである以上、軽いキャントリップ呪文は歓迎されるべき存在だ。先述したアズカンタの変身にも貢献する。同観点で《航路の作成》や《予期》もテストしたが、若干の重さが気になった。《予知覚》と入れ替えで1枚か2枚程度の採用なら考えられるだろう。

 

グランプリ・メンフィス2019

上記過程を経てひとまずの完成を迎えたのが下記リスト。同リストでGPメンフィスに参加し、トップ8に入賞した。

 

クリーチャー(2)
2 ハイドロイド混成体

スペル(34)
4 選択
3 アズカンタの探索
3 一瞬
4 根の罠
4 成長のらせん
3 悪意ある妨害
4 薬術師の眼識
4 荒野の再生
1 予知覚
4 運命のきずな

ランド(24)
4 島
6 森
4 繁殖池
4 内陸の湾港
2 シミックのギルド門
4 天才の記念像

サイドボード
2 僧帽地帯のドルイド
3 培養ドルイド
2 アゾカンの射手
2 生体性軟泥
1 ハイドロイド混成体
2 押し潰す梢
1 鋭射手の斉射
2 否認

 

同大会20位入賞の市川ユウキとサイドボードの構成が若干異なるのは、前日夜"適当に決めた"ため。グランプリ本番までにこの構成で対戦に臨んだ事は一度も無い。このグランプリ自体「経験値を得られれば良い」程度の感覚で参加しており、正直なところ勝てるとは全く思っていなかった。全く同じ構成で参加するよりは採択を散らして多様な経験値を得られる方が有益と考えて臨んだ結果、思っていたよりも上手くいった。

 

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彼のリストとの相違点である《僧帽地帯のドルイド》と《生体性軟泥》は白系のアグロデッキを意識した選択で、彼は《アゾカンの射手》に寄せた選択を行ったが、僕は「白アグロに対する3マナ以上のヘイトカードは有効度が一気に低下する」という持論を持っており、《僧帽地帯のドルイド》と分けることを選んだ。結果《培養ドルイド》と合わせて5枚のマナクリーチャーを採用することになったので、マナの活用手段として《生体性軟泥》を追加採用した。白アグロがサイドボードから行うメタは《否認》や《啓蒙》といった非クリーチャースペルへの対策がほとんどなので、クリーチャーによる勝ち手段のシフトは有用だ。

 

【グランプリ・メンフィス2019対戦結果】

R1 bye
R2 bye
R3 bye
R4 マルドゥ・アグロ ○○
R5 スゥルタイ・ミッドレンジ ○○
R6 シミック・ネクサス ○○
R7 イゼット・ドレイク ○○
R8 エスパー・コントロール ×○○
R9 青単テンポ ○○
R10 スゥルタイ・ミッドレンジ ○×○
R11 赤単ミッドレンジ(タッチ黒) ○○
R12 エスパー・ミッドレンジ ○○
R13 白単アグロ ○○
R14 ID
R15 ID
SE1 スゥルタイ・ミッドレンジ ○××

 

R8のエスパーコントロール戦ではゲームロス*1の裁定で1ゲーム目を落とし、2ゲーム目をメインボードの状態で対戦し勝利したので、結果的にメインボードの勝率は100%を記録している。いくらコンボデッキとは言え異常とも言える数値だ。サイドボード後も3本しか負けていない。恐らくデッキ構成が知られていなかった面が大きく、対戦相手は適正なサイドボーディングが出来なかったことだろう。この時点では「シミック・ネクサス」は仮想敵として認識されていなかった。

 

グランプリを終え、同じく「シミック・ネクサス」を使用した市川ユウキとの情報共有が行われた。3枚目以降の《ハイドロイド混成体》は必要とされるマッチアップが存在しないこと、地上アグロに対する《生体性軟泥》の有用性、青単テンポに対する《培養ドルイド》の有用性などが報告され、残り数日間の調整に役立てられることになる。

ただ本番に向け「シミック・ネクサス」を集中的にテストした結果、3つのデッキに対しどうしても勝率が出せないことが明らかになった。「白単」「青単」「赤単」の単色デッキ3つだ。

 

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いずれもコンボを決めるまでの時間を十分に与えてくれない高速のアグロデッキで、こちらが相当都合の良い引きをしない限り勝つことはない。
青単のみ《執着的探訪》さえエンチャントされなければ勝利できる可能性があるが、白単と赤単には常に厳しい戦いを求められる。
GPメンフィスからMCクリーブランドまでの3日間はこの改善に尽力したが、結局有効な手立ては見つけられず、気休め程度のメタカードでサイドボードを埋める事しかできなかった。

 

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本当に、気が遠くなるほどの種類のカードをテストしたが、どれ一つとして有効では無かった。サイドスロットは空いているのに、入れたいものが無い。初めての経験だった。メインボードの勝率が圧倒的過ぎたがゆえに、サイドボードさえ何とかなれば最強デッキを生み出すことができるという魅力に駆られ、気付けば50時間近くを思索と試行に費やしていた。そして結局のところ、そんなものは見つからなかった。

 

ミシックチャンピオンシップ本番

他に優れた選択肢も無かったので、結局「シミック・ネクサス」をプレイすることにした。残念ながら、今回チームデッキと呼べるような代物を生み出すことは出来なかった。メンバーに向けた最終報告にも「おそらく、良い選択肢ではない」というメッセージを添えた。最終的に「シミック・ネクサス」を選択したのも調整メンバー12人中3人のみ。他の各人もどこか納得を示せないまま、ぼんやりとした思いでそれぞれのデッキを選んでいた。後述するが、この環境ベターはあってもベストは無かったように思う。そういう意味では己の役割、ネクサスデッキの完成形を仕上げるという仕事は全うできたと思うので、ここまでの行いに悔いはない。

 

さて、本番でのリストは以下の通り。

 

クリーチャー(2)
2 ハイドロイド混成体

スペル(34)
4 選択
3 アズカンタの探索
3 一瞬
4 根の罠
4 成長のらせん
3 悪意ある妨害
4 薬術師の眼識
4 荒野の再生
1 予知覚
4 運命のきずな

ランド(24)
6 島
6 森
4 繁殖池
4 内陸の湾港
4 天才の記念像

サイドボード
3 イクサーリの卜占師
4 培養ドルイド
2 アゾカンの射手
2 生体性軟泥
2 押し潰す梢
2 否認

 

GPメンフィスからの変更点は3点。

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まず1つは《シミックのギルド門》を2枚とも《島》に変更。元リストは2色デッキの割にタップインランドが多過ぎることが問題視されていた。《エリマキ神秘家》も抜いてしまったので、緑マナの総数にこだわる必要も薄れている。
《天才の記念像》はループ成立に影響することからも可能であれば最大値を取るべきとの見方が強かったが、《シミックのギルド門》は単純なタップインのため、可能であれば削りたかった。参考までに、僕のGPメンフィスの最終試合は手札の4枚のタップインランドが1枚でもアンタップインならば勝利していた可能性が高い。(《シミックのギルド門》2枚に《天才の記念像》2枚の内訳)
シミックのギルド門》を廃することで理論上どの程度の問題が発生するのかを市川ユウキが調査したところ、驚くべきことにギルド門を《島》に変えた方が2ターン目の緑マナが出やすくなることが発覚。詳しい話は下記を参照してほしい。

【2019MC1】市川 ユウキ 2日目スタンダードラウンドまとめ+「シミックネクサス」デッキテク【Day2】 | Team Cygames

M10ランドが求める基本土地の割合が関与するのだが、単純に色マナカウントを増やすことが安定に繋がる訳ではないことを知り、マナベースの奥深さを学んだ。

 

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2点目はサイドボードの《培養ドルイド》の増量。このカードは対青単における最重要カードで、同マッチアップではこのカードのプレイが勝率に直結する。対青単を意識し、スロットに余裕があるなら必ず4枚を選ぶべきカード。
このマッチアップの要点は相手ターン終了時に《運命のきずな》をプレイできる状態までマナを伸ばすことで、相手ターン終了時《運命のきずな》⇒自分ターンメインで《荒野の再生》+《否認》のような三段構えの仕掛けを用意できるかにかかっている。二段構え程度ではカウンター2枚で簡単に弾かれてしまうので、相手の想定を上回るためには相手ターン終了時から動き始めるしかない。その上で、7マナという膨大な数値を捻り出すためには《培養ドルイド》の存在が必要不可欠だ。4ターン目に順応を起動すれば5ターン目には7マナを用意できる。対戦相手は4マナか5マナしかないので、三段構えの仕掛けであれば十分突破可能だ。

 

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3点目は《イクサーリの卜占師》の採用だが、ハッキリ言ってこのカードはメチャクチャ弱かった。前述の通りサイドスロットはあるのに入れたいカードが無い状態が続いており、デッキリスト提出期限を迎えたタイミングですら13枚目以降のカードが決まっていない状態だった。仕方が無いので残りの3枚は適当に決めた。時間も無かったし案も無かった。僕の場合このカードは試してすらいない。
一応の投入理由は「赤単」相手のブロッカーで、探検が成功して1/4になればブロッカーとしてはまぁまぁ頼もしいし、0/3でもキャントリップで土地が手に入っているので最低限の仕事はするだろうと期待していた。ならば同じ理由で「白単」相手にもやるのではないかと思いサイドインしたところ、あまりの弱さに泡を吹き出して倒れるところだった。絶対にお勧めしないので、もし上記リストをプレイする際は好みの何かに変えてほしい。ただし、我々の経験で言えばそのどれもが決して良しとされるものではない。

 

【ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019スタンダード対戦結果】

R1~3 ドラフト(2-1)

R4 白単(Carlos Romao) ××
R5 スゥルタイ・ミッドレンジ(Allen Wu) ○○
R6 イゼット・ドレイク ○○
R7 スゥルタイ・コントロール ×○×
R8 青単テンポ ○×○

R9~11 ドラフト(1-2)

R12 青単テンポ ○×○
R13 イゼット・フェニックス(Alexander Hayne) ○○
R14 ティムール・コントロール ○×○
R15 マルドゥ・アグロ ○○
R16 シミック・ネクサス ○××

 

スタンダードラウンドのスコアは7-3。ドラフトラウンド開けのR4を相性の悪い「白単」とマッチングし、何もいいところなくストレート負け。R7の「スゥルタイ・コントロール」戦とR16の「シミック・ネクサス」戦はやりようによっては勝てたかもしれないが、その分相性の悪い青単に2勝しているので、最終スコアの7-3は妥当な結果に感じる。事前練習でも勝率は6割程度だったので、このデッキをプレイする上では満足すべき数値だ。

 

取り組みを振り返って

構成で後悔が残る点としては、どこまで行っても分の悪い「白単」と「赤単」に気休め程度のサイドスロットを取ってしまったことで、どうせならどこかのマッチアップに寄せ切れば良かったと悔いた。最終戦の相手はミラーマッチを見据えて《否認》を4枚採用しており、その点が響いてサイドボード後のゲームを連敗した。プロツアーの1勝は重い。僕はこの1敗でプロポイント4点と賞金20万円近くを失った。ホンのわずかな判断のズレが要所で重くのしかかるのだ。

 

次にデッキ選択の観点において、本大会の優勝デッキは「青単」であり、トップ8にも3つが入賞した。この結果を見れば「勝ち組は青単だった」と受け止められるかもしれないが、僕はそうは考えない。彼らのスタンダードラウンドの成績は決してずば抜けたものではなく(7-1-2、7-2-1、6-3-1)、リミテッドラウンドの好成績によりトップ8進出を決めている。「青単」が手堅い選択肢であったのは間違い無い。リミテッドに自信のあるプレイヤーが最低限のスコアを担保するのに最適なのが単色のアグロデッキだったと解釈している。同じくトップ8入賞のMarcio Carvalhoが使用した白単アグロも同様の見解だ。

 

前回のプロツアー『ラヴニカのギルド』からスタンダード環境は非常にバランスが取れており、一つか二つのデッキが支配的な強さを持つような時代は久しく訪れていない。いわゆる"良環境"と呼ばれるものだが、プレイヤーのデッキ選択はより難しくなってきている。「バッドはあれどベストは無く、いずれもベター」、そんな状態が続いている。
今回で言えば、「イゼット・ドレイク」や「エスパー・ミッドレンジ」は明らかなバッド(有利な相手が少なく不利な相手が多い)だが、その他のデッキは使用に足る理由がいずれも存在していた。どの選択でも7-3は目指せそうだが、それ以上はイメージが付かない状況だった。この均衡は次セットがリリースされるまで続くと考えている。やはり発売5週間後の戦いはどのデッキもしっかりしており、デッキ勝ちが難しい。
その観点で言えば、「シミック・ネクサス」をもしGPメンフィスで披露しなければ、違う結果が訪れた可能性はある。GPメンフィスのトップ32には僕と市川ユウキ以外に同デッキの使用者はいなかったし、MCクリーブランドでトップ8に入賞したMichael Bondeのリストは75枚中74枚が僕のコピーデッキだった。
ただあの時点で僕らはこのデッキを良いものだとは考えていなかったし、あの結果があったからこそ本番での使用を決めた側面も大きい。少し考えづらい世界だ。
もし現在よりも良い調整手段を確立できていれば、グランプリというフィールドを経験せずとも自信をもって同デッキを選択できた可能性はあるので、調整の質の担保は今後の課題になりそうだ。

*1:《荒野の再生》を処理する際に発生する浮きマナの管理に《島》と《森》を使っていたのだが、それをデッキケースの中にしまってしまい、余分なサイドボードを使用しているとの判定を受けた。