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続きそうだったらなんか考える

ネクストレベル・ネクサスは存在し得るか

先日掲載したミシックチャンピオンシップ参加レポートの中で「シミック・ネクサスは単色アグロを克服できない」旨を記述した。あれからしばらくが経過したが、今もその考えに変わりはない。

 

jspeed.hatenablog.com

 

唯一、対青単に関しては《クロールの銛打ち》を多く(可能であれば4枚)採用することで改善が図れることがわかった。

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青単相手の負け筋は《執着的探訪》がほとんどで、このカードがプレイされなければカウンターの総量もクロックも驚異的ではないことが多い。ゆえにサイドインするカードは「2ターン目の探訪に干渉できるカード」が好ましく、その点で言えば《アゾカンの射手》も《押し潰す梢》も適切ではない。

 

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当初は青単に加え白単と赤単の3面を見た選択であったが、白単・赤単にはこのカードをプレイしたところで歯が立たないことがわかったので、それならば内1つに対してより効果的な《クロールの銛打ち》を使うべきなのは自明の理

3ターン目は余裕をもってマナを構えられるため、対処できるカードの幅が一気に増えてしまう。《クロールの銛打ち》はエンチャント先が《霧まといの川守り》であるか《潜水》をプレイした上で場に残る3/2到達を排除する手段が必要になるので、条件が段違いだ。
プロツアー優勝デッキという事もあり、現在は青単に対するガードは上げておくことが好ましい。もし今シミック・ネクサスをプレイする場合はメインボードをそのままに、サイドボードを下記のように変更する。

 

シミック・ネクサス新サイドボード案

4 クロールの銛打ち
3 培養ドルイド
3 生体性軟泥
2 押し潰す梢
3 否認

 

《生体性軟泥》は納得がいっていないスロットなので、もし白単と赤単により勝率を出せるカードが存在するならば、それを選んでもらって構わない。しかしおそらくそんなものは無いので"夢を見られる何か"を飾っておくだけのスロットになる。おすすめは「動きの芳しくない相手を速やかに介錯するカード」だ。(現状はそれが《生体性軟泥》)

 

上記の変更は対青単を克服するためのもので、結局白単・赤単には全くもって勝ち得ない。MTG Arenaのランクマッチでも同デッキと対戦する度に負けを重ねたし、1ターン目《短角獣の歩哨》、2ターン目アクション無しの白単に負けた時は笑うしかなかった。

 

ネクストレベル

月末にグランプリ・京都2019が開催されるが、それにもまだ時間がある。ミシックチャンピオンシップの余韻で、最近は「単色アグロに勝ち得るネクサスデッキは存在するか」を考えていた。
同デッキを少しでもプレイすれば、これら不利マッチアップの存在には気が付く。まずは先日のミシックチャンピオンシップにてネクサスデッキをプレイし、成績優秀者リストとして取り上げられたものを一通りチェックした。

以降の引用元

ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019 デッキリスト・マッチポイント24~30点(スタンダード)|イベントカバレージ|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト

ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019 デッキリスト・マッチポイント21~23点(スタンダード)|イベントカバレージ|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト

ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019 デッキリスト・マッチポイント18~20点(スタンダード)|イベントカバレージ|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト

シミック・ネクサスに関しては、そのほとんどがグランプリ・メンフィス2019で僕がプレイしたリストのコピーデッキだった。若干の差異こそあれど、上記課題を乗り越えるに至るアイデアは見当たらなかった。

 

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先日のレポートにも記したが、3マナ以上のカードは重い。相手側は1・2ターン目からトップギアで攻めてくるのに対し、同ターンこちらは特に有効なアクションが無く、3ターン目から手を打ち始めたところで間に合いはしない。ほとんどの場合、それまでにはゲームが決定付いている。結局これらのカードのプレイが許されるのは《荒野の再生》と《運命のきずな》を素引きで揃え、他要素に関係なく勝ってしまう展開だけだ。序盤に有効なアクションを起こさなければ《薬術師の眼識》をプレイしている暇はない。

 

「結局、答えなんてないのか。」
諦め半分で「《運命のきずな》」のワードを成績優秀者リストで検索に掛け順々にリストをチェックしていたところ、あるデッキが目に止まった。それは同じ《運命のきずな》をプレイしながらも構造の大部分が異なる亜種デッキ、門ネクサスだ。

 

Leonardo Barboza - ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019 7勝3敗

クリーチャー(4)
4 ハイドロイド混成体

スペル(31)
2 呪文貫き
4 成長のらせん
4 ギルド会談
4 燃え立つ門
2 轟音のクラリオン
4 迂回路
3 荒野の再生
4 運命のきずな
4 発展+発破

ランド(25)
1 島
1 森
1 繁殖池
3 アゾリウスのギルド門
3 ボロスのギルド門
1 セレズニアのギルド門
3 イゼットのギルド門
4 シミックのギルド門
4 グルールのギルド門
4 調和の公有地

サイドボード
3 門破りの雄羊
3 アーチ道の天使
2 殺戮の暴君
2 パルン、ニヴ=ミゼット
3 否認
2 溶岩コイル

 

8-2以上のスコアこそ無かったものの、7-3以上のスコアは3人が記録していた。公式発表のメタゲームブレイクダウンでは門ネクサスもネクサスデッキとして一括りに扱われていたため詳細な勝率はわからない。ただ現地で様子を見回っていた限りでは使用者はかなり少なかったと思うので、実は隠れた勝ち組だった可能性がある。

 

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同デッキにはシミック・ネクサスが欲して止まなかった対アグロ要素がふんだんに含まれている。タップインのラグがあるとは言え、取り返し方が豪快なので許容範囲内だ。
その分対コントロール性能は低下しているが、可能性を感じさせる選択肢に思えた。黒以外の4色デッキなので、あらゆるカードが採択の範疇に収まるのも魅力的。シミック・ネクサスはリミテッドカードを真剣に考慮せざるを得ないほどに貧しいプールだった。

 

そしてこの時、「シミック・ネクサスも同様に、色を増やすことができないか」という事を思い立った。元々は3色デッキのマナベースが問題だったがゆえに目を向けられた構築なので矛盾する部分はあるが、現状の構築は一つの完成系を迎えている。現状で打破できない問題があるなら、ネクストレベルを目指して然るべきではないだろうか。
色一つが追加されるだけで、出来ることは飛躍的に広がる。例えば、上記成績優秀者リストの中に黒を追加したスゥルタイバージョンのネクサスデッキが紹介されていた。

 

Kral Sarap - ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019 6勝4敗

クリーチャー(4)
4 ハイドロイド混成体

スペル(30)
4 成長のらせん
4 思考消去
3 アズカンタの探索
2 喪心
1 暗殺者の戦利品
4 薬術師の眼識
4 荒野の再生
3 煤の儀式
1 予知覚
4 運命のきずな

ランド(26)
1 沼
4 湿った墓
4 繁殖池
4 草むした墓
4 水没した地下墓地
4 内陸の湾港
4 森林の墓地
1 天才の記念像

サイドボード
3 正気泥棒
3 生体性軟泥
3 否認
3 肉儀場の叫び
1 暗殺者の戦利品
2 漂流自我

 

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黒が加わったことで、クリーチャー脅威への対処手段を《根の罠》による延命ではなく《喪心》《暗殺者の戦利品》《煤の儀式》による直接的な除去としている。シミック・ネクサスが《悪意ある妨害》にて行っていた妨害兼潤滑油の役割も《思考消去》で果たす狙いだ。
インスタントタイミングのカードが減ったことで《荒野の再生》のバリューが下がっている点が気になるが、アプローチの掛け方としては参考になる部分がある。色を追加すればこうした戦略も取れるようになる訳だ。

 

では他の色ならばどうだろう?
PVことPaulo Vitor Damo Da Rosaが赤を加えたティムール・ネクサスをプレイしていたが、これは勝ち筋の《ハイドロイド混成体》を《発展+発破》に変更した極微量のタッチなので、ほぼシミック・ネクサスと言える。

 

Paulo Vitor Damo Da Rosa - ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019 7勝3敗

クリーチャー(0)

スペル(34)
4 選択
3 アズカンタの探索
2 一瞬
4 根の罠
4 成長のらせん
2 悪意ある妨害
4 薬術師の眼識
4 荒野の再生
4 運命のきずな
3 発展+発破

ランド(26)
7 島
4 森
4 繁殖池
3 踏み鳴らされる地
4 内陸の湾港
4 天才の記念像

サイドボード
4 クロールの銛撃ち
3 翡翠光のレインジャー
2 生体性軟泥
2 ハイドロイド混成体
3 否認
1 押し潰す梢

 

ちなみにPVのリストはサイドボードの《アゾカンの射手》が既に廃されており、青単へのメタは4枚の《クロールの銛打ち》に全振りされている。白単・赤単はほとんど切った格好で、現在の僕の指針とほとんど一致する。本番での経験と、その後何日もの考察を経てようやく辿り着いた結論にこの時点で既に達しているのは流石としか言いようがない。

 

より純粋に赤を使用したリストは同イベントで見当たらなかったが、最も近いのはPascal Maynardが使用したティムール・コントロールだ。

 

Pascal Maynard - ミシックチャンピオンシップ・クリーブランド2019 8勝2敗

クリーチャー(2)
2 パルン、ニヴ=ミゼット

スペル(32)
4 発展+発破
4 シヴの火
2 選択
4 成長のらせん
2 アズカンタの探索
2 中略
4 悪意ある妨害
2 焦熱の連続砲撃
4 薬術師の眼識
4 荒野の再生

ランド(26)
2 島
1 山
4 蒸気孔
4 繁殖池
4 踏み鳴らされる地
4 硫黄の滝
4 内陸の湾港
3 根縛りの岩山

サイドボード
2 再燃するフェニックス
2 生体性軟泥
1 パルン、ニヴ=ミゼット
2 否認
2 幻惑の旋律
2 焦熱の連続砲撃
3 押し潰す梢
1 楽園の贈り物

 

もはや別デッキではあるが、おそらくネクサスデッキで赤を絡めたチューニングを行う場合でも同様のアプローチが施されることだろう。ティムールの3色には3点以上の全体火力が無いので、《ベナリアの軍司令》と《ゴブリンの鎖回し》の絡んだ盤面を一掃することができない。より小さな群れには《焦熱の連続砲撃》を用い、当該のクリーチャーには《稲妻の一撃》を使うか《シヴの火》のキッカープレイを考える事になる。更に巨大な脅威は対処を考えずコンボ成立に専念する。

 

原点回帰

3色のカラーリングはもう1つある。ネクサスデッキの原点、「バント」だ。
このカラーリングは現在僕が構想しているもので、シミック・ネクサスが抱える課題を最もストレートに解決してくれるのではないかと考えている。
バント・ネクサスと言えば先日のレポートで「なぜ3色以上のネクサスデッキがダメなのか」を気付かせてくれた大元のデッキだ。3色デッキは確かに問題も多いが、もちろんメリットもある。

 

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白というカラーリングの対アグロ耐性は目を見張るものがある。使用実績のあるカードをパッと見渡すだけでも魅力的な選択肢が目白押しだ。
《拘留代理人》は対白アグロにおける極めて強力な回答で、同デッキは低マナの同名カードを片っ端から4枚詰め込んでいるので一対多交換を頻発させるし、《ベナリア史》のトークンであればノーリスクで一掃できる。クリーチャーなので《啓蒙》も《否認》も当たらず、ほとんど完璧とも言える。この点は青単相手にも共通するポイントで、クリーチャーであることの価値が高い。
《豊潤の声、シャライ》と《黎明をもたらす者ライラ》は赤単に対し高い効力を誇る1枚で、苦手マッチアップを単一のカードパワーだけで乗り越える力がある。これらもクリーチャー呪文という事で、飛行能力と合わせ青単相手にも活躍が望める。

 

同じ方向性のリストは成績優秀者リストには見当たらなかったので、ここ最近自分でテストしている。新しい可能性を模索するのは楽しい。

 

バント・ネクサス - 試作品

クリーチャー(2)
2 ハイドロイド混成体

スペル(33)
4 選択
3 アズカンタの探索
3 一瞬
4 根の罠
4 成長のらせん
3 悪意ある妨害
4 薬術師の眼識
4 荒野の再生
4 運命のきずな

ランド(25)
4 神聖なる泉
4 寺院の庭
4 繁殖池
4 氷河の城砦
2 陽花弁の木立ち
4 内陸の湾港
3 天才の記念像

サイドボード
3 培養ドルイド
4 拘留代理人
1 豊潤の声、シャライ
3 黎明をもたらす者ライラ
2 否認
2 押し潰す梢

 

上記リストはまだテスト中のものなので、もし使用を考えているなら好きに変更してもらって構わない。メインボードの《悪意ある妨害》を《吸収》にしても良いし、《天才の記念像》を4枚取るために土地を26枚にしても良い。
注意してほしいのは、エスパー・コントロールなどと異なりこのデッキは《悪意ある妨害》や《吸収》を明確に3ターン目のアクションと定義しているため青マナは最低限18枚ほしいし、白マナはサイド後の《拘留代理人》を考えると最低13枚、出来れば14枚は用意したい。また《天才の記念像》は抜いてしまうとコンボ達成が難しくなるので、少なくとも3枚は採用した方が良い。最初は全て《島》だったが、全く回らなかった。

 

現状感じている課題は、当たり前だが土地周りの問題だ。相変わらずギルドランドのショックインは痛いしM10ランドの事故は起きる。3色の構造上この点はどうしようもないので、何かしら巻き返しの手段が必要だと感じている。

 

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《恩寵の天使》と《残骸の漂着》は、ミシックチャンピオンシップ・ロンドン2019地域予選突破の「バント・ネクサス」をプレイしていた際に悪くない感触を得たカードだった。メインボード時点で白を濃く使う意義も生まれるし、ドローソースがあるので数枚の採用でも比較的辿り着きやすい。ほんの数枚テコ入れを行う際は極力インパクトのあるカードを仕込んでおくのが適切なので、ピッタリのカードだ。

  


ミシックチャンピオンシップが終了し、プロプレイヤー達による環境の答えが提示された。だがその上で現在のスタンダードは多種多様なデッキに溢れ、可能性に満ちている。自分なりの答えを求めて現スタンダードを存分に楽しもう。