ヒストリックの世界
先日、Wizards公式より移行シーズンの計画見直しが発表された。
コロナウイルスの世界的流行を受け、オフラインでのイベント開催が困難となったため、直近に予定されていた大型イベントを全てMTGアリーナで実施するとのこと。同期間中、開催が予定されているのは以下の4つ。
- プレイヤーズツアー2020シリーズ2(スタンダード)
- プレイヤーズツアー2020ファイナル(スタンダード)
- ミシックインビテーショナル(ヒストリック)
- 2020シーズン・グランドファイナル(フォーマット未定)
MTGアリーナを用いたオンラインイベントということで、同クライアントでプレイできないフォーマットは対象外となる。パイオニア・モダン・レガシー、それに現機能では実現が困難なブースタードラフトも対象から外れ、構築フォーマットのみでの実施となる。(特定の8人とドラフトする機能は現在のアリーナに備わっておらず、運用でカバーするやり方は様々なトラブルが予想される)
中でも一際目を引くのが、ミシックインビテーショナルの採用フォーマットになっている『ヒストリック』。このフォーマットはMTGアリーナ限定のフォーマットであり、これまではカジュアルフォーマットとして扱われてきた。
僕はこのフォーマットをつい先日まで全くプレイしたことが無かった。時間に比較的余裕のあるこのタイミングで未知のフォーマットに触れておくのも悪くないだろうと思い、嗜んでみることにした。今回の記事もその一環。ライトな内容なので、気軽に目を通してもらいたい。
目次
ヒストリック概要
ヒストリックはMTGアリーナにおいて2019年11月にスタートしたフォーマット。MTGアリーナリリース後初となるスタンダードのローテーション実施に合わせて施行された。当初の目的は「MTGアリーナにおいて使用不可能なカードが生まれてしまうことを防ぎ、ユーザーがコレクション内の全てのカードを使用できる環境を用意すること」。
ヒストリックにはローテーションが無く、MTGアリーナ実装以後のカードセット(『イクサラン』以降)が全て使用可能。例外として、一部禁止カードが存在し、また『ヒストリックアンソロジー』なる特殊な枠組みが存在し、Wizardsにより選定された『イクサラン』以前のカードもいくつか使用できる。
また今後「リマスター版」という呼称で『イクサラン』よりも前のカードセットの収録が行われることも明言されており、直近では『アモンケット』の追加が予告されている。
その他、アリーナ内で実施されるイベントの報酬として過去セットのカードが入手できることがある。
禁止カード
2020年5月現在で禁止されているカードは以下の通り。
- 《夏の帳》
- 《むかしむかし》
- 《王冠泥棒、オーコ》
- (BO1に限り)《運命のきずな》
基本的にはスタンダードと同様の禁止が施されている。(《死者の原野》は使用可)
《王冠泥棒、オーコ》はスタンダード禁止直後もヒストリックにおいてはしばらくの間プレイすることができたが、スタンダードとほとんど変わらない構成のシミックフードが環境を席捲し、程なくして禁止された。
ヒストリックアンソロジー
ヒストリックを単純な「旧スタンダード」としないために、Wizards側により選定され例外的に追加されたカード群が存在。現状3度(『ヒストリックアンソロジー』『ヒストリックアンソロジー2』『ヒストリックアンソロジー3』)に渡る追加が行われており、四半期に1度のリリースが明言されている。これにより現在使用可能なカードは以下の通り。
(※英語の画像が混ざってしまっているが、アリーナに実装されているイラストと同じ画像がこれしか無かったので留意いただきたい。)
無色
《絶え間ない飢餓、ウラモグ》
白
《セラの高位僧》
《魂の管理人》
《スレイベンの守護者、サリア》
《ニクス毛の雄羊》
《一瞬の瞬き》
《機を見た援軍》
《鍛えられた鋼》
《イーオスのレインジャー》
《キンズベイルの騎兵》
《浄化の本殿》
《空位の玉座の印章》
青
《静かな旅立ち》
《白鳥の歌》
《宝物探し》
《メロウの騎兵》
《遠くの旋律》
《影武者》
《風見の本殿》
《容赦無い潮流》
黒
《墓所破り》
《チェイナーの布告》
《群れネズミ》
《脳蛆》
《無駄省き》
《ファイレクシアの闘技場》
《悪性の疫病》
《惑乱の死霊》
《ファイレクシアの抹消者》
《堕落の触手》
《夜陰の本殿》
《掘葬の儀式》
《宝石の手の汚染者》
赤
《竜使いののけ者》
《地盤改変》
《釜の悪鬼》
《ゴブリンの女看守》
《ゴブリンの廃墟飛ばし》
《激憤の本殿》
《宝石の手の焼却者》
《碑出告の第二の儀式》
《小悪魔の遊び》
緑
《エルフの幻想家》
《獣相のシャーマン》
《女魔術師の存在》
《祖先の仮面》
《土を食うもの》
《傲慢な完全者》
《生網の本殿》
《クローサの大牙獣》
《ワームの咆哮》
マルチ
《翻弄する魔道士》
《大渦の脈動》
《炎樹族の使者》
《聖遺の騎士》
《艦長シッセイ》
《ミラーリの目覚め》
アーティファクト
《羽ばたき飛行機械》
《精神石》
《漸増爆弾》
《ダークスティールの反応炉》
《アクローマの記念碑》
《白金の天使》
土地
《隔離されたステップ》
《孤立した砂州》
《やせた原野》
《忘れられた洞窟》
《平穏な茂み》
《ボジューカの沼》
《古代の聖塔》
《迷路の終わり》
《幽霊街》
パイオニアやモダン、はたまたレガシーのカードプールからも選出が行われている。パッと見ただけでは何を基準に選ばれているのかよくわからない。公式にある選出基準は以下の通り。
- ヒストリックを単なる「旧スタンダード+『エルドレインの王権』」にしないために、既存のデッキとは異なるデッキに活力を与えられるカードを探しました。
- 競技志向のプレイヤーのために新しい選択肢を用意するため、過去のスタンダードで活躍したカードを探しました。モダンなどのフォーマットで見受けられるカードも議題に挙がりました。
- ヒストリックで使えるカードの範囲を示すことが重要でした。そこで私たちは、広範囲のカードを扱うキューブ・ドラフトや統率者戦における人気カードも調べました。
- モダンやパイオニアで使用できるカードだけに限ることも検討しました。しかし結論として、ヒストリックをそれらと同じフォーマットにするつもりはありません。生半可に使用できるカードを定めても、それで突然フォーマットが完成するわけではありません。ヒストリックには、他のフォーマットのなりそこないではなく、独自のフォーマットとして発展してもらいたいと私たちは思っています。
"独自のフォーマットとして発展してもらいたい"の部分が重要に見える。似たり寄ったりなフォーマットを複製しても面白味がないと思うので、試み自体は良いと思う。
競技シーンでの活躍が望めないカードも散見されるが、中には高い影響力を持つものも存在。ある程度意図してアーキタイプを生み出そうとしているようだ。中身を追っていく。
部族
分かりやすいところで言えば、各種部族デッキ。
種族シナジーを形成する上でバリューとなるカードがいくつか追加されている。
ライフゲイン
スタンダードでもお馴染みの《癒し手の鷹》《アジャニの群れ仲間》パッケージと合わせて基盤が確立。直線的なアグロが台頭する環境であればその対抗馬として候補に上がる可能性がある。
黒単信心
『テーロス還魂記』に《アスフォデルの灰色商人》が再録されたこともあり、まとまりを見せてきた。《ファイレクシアの抹消者》がとにかくカッコよく、既に一定層から支持を得ている。
ギルドランド、M10ランド、占術ランド、トライランドなどヒストリックで使用可能な特殊地形にはそれなりの種類があるので、クアトロシンボルを踏まえた上での多色化も検討できるだろう。
《掘葬の儀式》のフラッシュバック能力により、山札を掘り下げる行為が蘇生対象+蘇生手段の両獲得に繋がり、動きが完結するようになった。
《鍛えられた鋼》の破壊力が凄まじい。パイオニアの《アーティファクトの魂込め》とはまた違った爆発力がある。ひとえにアーティファクトシナジーと言ってもフォーマット毎に特色が出るのは面白い。個人的には良い選定。
人間
《古代の聖塔》は多色のアグロデッキを構築する上で大きな助けとなり、《スレイベンの守護者、サリア》《翻弄する魔道士》はコントロールデッキやコンボデッキとの戦いを劇的に改善する。
その他ギミック
現状はまだデッキとしての成立が難しい印象だが、アーキタイプとして成立させ得るカード群なので、今後どこかのタイミングで日の目を浴びる可能性もある。
メタカード
またアーキタイプ用のカード以外にメタカードも収録されており、これらは《死者の原野》を睨んだものであると思われる。
《死者の原野》はスタンダード・パイオニアでは禁止指定を受けており、環境を破壊しかねないカードパワーを有する。ヒストリックにおいても一時は「一時停止カード」に指定されていた背景があり、既存のプールには存在しないメタカードを用意することで、一定の警戒レベルを敷く方針のようだ。
直近のメタゲーム
ヒストリックのメタゲームは"つい最近"定義された。それまでの間は「よく当たるデッキ」こそあれど、メタゲームと呼べるようなものは存在しなかった。前述のグルールアグロも「メッチャいるらしい」「マジで強い」と言った雰囲気情報だけで、全体のどのくらいを占めるだとか、そんな具体的なデータは無かった。
なぜか。答えはシンプルで、「メタゲームを形成するための材料となるような大会が無かったから」だ。ヒストリックの情報は驚くほど見つからない。いざ始めてみようと、適当なデッキリストをコピーするために普段利用しているサイトを探したところ、一般ユーザーの投稿デッキしか見当たらなかった。真にカジュアルな領域であったのだ。
MTGアリーナを用いた大会は原則スタンダードで開催され、ヒストリックを題材にしたトーナメントはほとんどない。そこについ先日、突如として、ビッグイベントである「ミシックインビテーショナル」の採用フォーマットとする旨がWizards公式より告知された。
これを受けてか、アメリカの人気ストリーマーであるJeff Hooglandが自身の主催する「Hooglandia Open」の第3回大会にてイベントを企画。参加者は200人を超え、僕の知るところでヒストリック史上初となる大型イベントとなった。(他にもあるかもしれないけど、知らないからごめん)
これでようやくメタゲームと呼べるものも出てくることだろう。当該のイベントの結果は以下の通り。
Hooglandia Open 3(Historic)
トップ8
1位 ナヤ・ウィノータ
2位 ナヤ・ウィノータ
3位 グルール・オボシュ
4位 ジャンド・サクリファイス
5位 ナヤ・ウィノータ
6位 ナヤ・ウィノータ
7位 ジェスカイ・ルーカ
8位 ナヤ・ウィノータ
4人 ジェスカイ・ルーカ
3人 ナヤ・ウィノータ
1人 青単テンポ
トップ32
3人 ナヤ・ウィノータ
2人 緑単ランプ
1人 ジェスカイ・ルーカ
1人 スゥルタイ・ストンピィ
1人 スゥルタイ・コントロール
1人 スゥルタイ・神託者コンボ
1人 ジャンド・アグロ
1人 ジャンド・サクリファイス
1人 グリクシス・ドレッジ
1人 ボロス・フェザー
1人 シミック・ネクサス
1人 白単ソウルシスターズ
1人 青単テンポ
情報元
トップ32以下は雑多なデッキが多くなるので割愛して話すが、上位は見ての通りナヤ・ウィノータとジェスカイ・ルーカの海。特にナヤ・ウィノータのパフォーマンスは圧倒的で、同大会におけるデッキ単位の勝率は70%を示した。
勝率2位のグルール・オボシュが69%なので「なんだ1%しか違わないじゃないか」と思ってしまうかもしれないが、「グルール・オボシュ」の使用者は3位に入賞した1名だけで、そのプレイヤー単独の成績を示している。3位のイゼット・アグロや4位のボロス・フェザーも同様。一方で「ナヤ・ウィノータ」は26名の使用者がおり、総合成績としては異常な値。同じく勝ち組とされた「ジェスカイ・ルーカ」は28名の使用者がいるが、勝率は15位の56%と低い。勝つ人間もいれば負ける人間もいるのでこの数値はむしろノーマルなもので、一方の「ナヤ・ウィノータ」は「使ったやつら皆が皆勝った」状態。圧倒的だ。
ナヤ・ウィノータ
僕は知る人ぞ知るウィノータ狂で、次期MRL参入に備えトップメタデッキの練習に精を出す一方、裏では全カラーリングのウィノータをテストするなどし、夜な夜な研究を行っていた。
ボロスウィノータ
— kenta harane (@jspd_) 2020年4月15日
1回の戦闘で複数回誘発できるウィノータをトークン系カードで暴れさせる(とりあえず鼓舞する隊長試してみて、弱かったら工作員ガチャに変更 pic.twitter.com/GhHWtBQBEr
ジェスカイも試してみたけど、やはりタップインが気になる。2と3は綺麗に動かないと4を置く隙が作れない。孵化/不和もタップイン多過ぎて打つ暇あらず。
— kenta harane (@jspd_) 2020年4月23日
2マナ3点と赤のおっちゃんで安定させた方が良さげ。おっちゃん1枚スクライかな。 pic.twitter.com/pIFsU3YE7z
ウィノータまぁまぁやれるようになったので、使いたい人はどうぞ。
— kenta harane (@jspd_) 2020年4月25日
ただ繊細さが必要なのでもうパチンコではない。 pic.twitter.com/J6yOcVLB6v
ウィノータ
— kenta harane (@jspd_) 2020年5月3日
別バージョンをテスト中 pic.twitter.com/v2gbPaQExt
俺の秘蔵(死蔵)の4Cウィノータが流出?! pic.twitter.com/zc52bxnzxh
— kenta harane (@jspd_) 2020年5月13日
何度だって適応してやる… pic.twitter.com/qVVHk4lOgD
— kenta harane (@jspd_) 2020年5月13日
もやしみたいなカード並べられても困る。80点は削る気持ち出してほしい。 pic.twitter.com/iWTyWUjIPp
— kenta harane (@jspd_) 2020年5月22日
— kenta harane (@jspd_) 2020年5月23日
そんなウィノータ狂いの僕からすると、ヒストリックのウィノータは実に最高だ。圧倒的スコアを収めたことからその強さが理由の一つに挙げられるのは間違いないが、グルーブ感・爽快感が最大のポイント。
ウィノータの能力は平たく言えば「デッキからめくれた人間を出す」なので、どんな人間クリーチャーを出せるかがデッキの価値を図る要素になる。スタンダードにおける"最強の人間"は《裏切りの工作員》であり、基本はこれを繰り出すデッキ。
一方のヒストリックにおいてはもう一人"最強の人間"候補が存在する。《アングラスの匪賊》。スタンダード時代は見向きもされず、7マナという重さはリミテッドですら敬遠されるレベルだったが、まともにプレイすることを考慮しない、山札から直接場に出すカードとしては非常に強力な能力を持つ。ウィノータの能力で場に出せば「8/8速攻」であり、更に一緒に攻撃しているクリーチャー達のパワーも倍になる。複数枚めくれた際のバリューも高く、2枚めくれれば4倍、3枚で8倍、4枚で16倍。ウィノータの能力を起動させる際は複数体のクリーチャーで攻撃を仕掛けるのが前提になってくるので、オーバーキルなど狙わず真面目にプレイした結果でも100点近い打点が出たりする。
追加の当たり要因として採用されるのが、スタンダードでも時折使用される《無傷のハクトス》。頭でっかちのスタッツは《アングラスの匪賊》と相性が良く、もしウィノータで匪賊とハクトスが揃えば、2体だけでも20点のダメージが叩き出せる。
ウィノータからの当たり要因として工作員を使った場合、最速で場に出すことができれば相手のパーマネントを奪い一方的な蹂躙を可能とするが、奪うパーマネントが明確でない状況ではバリューが一気に低下し、特にコントロール系のデッキには意味のない土地を1枚奪った返しに《空の粉砕》のような全体除去で対処されてしまうことも多かった。一方の匪賊は「効果発動ターン中に勝つ」ことを可能とするため、コンボの着地点としては最上級の成果が得られる仕組み。
上記ギミック自体はウィノータのカラーである白と赤のみで成立するが、今回成功を収めたのは「ナヤ」。増やした色である緑のカードは《ラノワールのエルフ》《獣相のシャーマン》の2種で、どちらもウィノータとの相性を評価して採用されている。(《集めるもの、ウモーリ》に関しては後述)
共に人間の種族を持たないため、ウィノータの起動要員として役立つ。特に《ラノワールのエルフ》はコンボターン短縮に貢献しながら、土地が伸び切りマナクリーチャーとしての役割を失った後でも起動要員としての役割が残せるのは大きい。同じくウィノータと相性の良い《軍勢の戦親分》を2ターン目に繰り出せるなど、非常にデッキとマッチしている。
《獣相のシャーマン》は明確にウィノータをネクストレベルに押し上げた1枚。というのも、ウィノータデッキ最大の課題は「ウィノータを引けた時と引けなかった時の動きに差があり過ぎる」ことであり、ウィノータが実質8枚になるこのカードの追加は革命的なアップデートだったと言える。
スタンダードでは《新生化》を用いることで同様に実質8枚体制を実現する構築も存在するが、デッキのカラーリングが4色になってしまうため安定せず、また《新生化》自体は2枚目以降にバリューが無く、事故要素にもなり得る。《獣相のシャーマン》は2枚目以降を自身の効果で処理してしまえるので、即効性の観点に目を瞑っても明確な上位互換だ。
そして今回結果を残したリストで個人的に最も優れていると感じたのが《古代の聖塔》を採用している点。
ヒストリック環境で多色化を図った場合、多くはギルドランド+M10ランドのマナベースになるが、3色デッキでこのマナベースを採用した上で《ラノワールのエルフ》を運用しようとすると、1ターン目のアンタップイン緑マナをあまり多く用意できない点がネックだった。特に当たり要因に《無傷のハクトス》を用意した場合《森》の採用は非常にリスク。
「1ターン目のアンタップイン緑マナ」及び「ハクトスを4ターン目にプレイ可能なマナベース」の観点で《古代の聖塔》を引っ張ってきたのは本当に頭が良い。天才。
更に《古代の聖塔》を用いる関係上デッキ内の呪文の大半をクリーチャーで占める必要が出てきた訳だが、ここに相棒として《集めるもの、ウモーリ》を収めるやり方が非常にスマート。
このウモーリは「条件が合ったから入れた相棒」というだけでなく、5ターン目にウィノータ+《軍勢の戦親分》のダブルアクションを可能にする他、7マナと重い《アングラスの匪賊》をプレイ可能なマナ域に落とし込むなど、明確な役割を持っている。土地25枚に4枚の《ラノワールのエルフ》とフラッドしやすい構造に4/5の高スタッツを初手時点でリソースとして確定できるのも評価ポイント。
ジェスカイ・ルーカ
現在のスタンダードシーンでも文句なしのtier1を張るジェスカイ・ルーカのヒストリックバージョン。追加要素には《不可解な終焉》《アズカンタの探索》《ウルザの後継、カーン》《ドミナリアの英雄、テフェリー》《運命のきずな》らがあるが、どれもメインギミックのおまけに過ぎず、デッキの基盤はスタンダードのものとなんら変わりない。それだけ強力なデッキタイプ。
ジェスカイルーカがスタンダードで圧倒的、かつヒストリックにも通用する要因として、「ほぼ全てのゲームレンジに対応できること」が上げられる。《空の粉砕》や《陽光の輝き》と言った全体除去により"面"の展開に対応でき、《銅纏いののけ者、ルーカ》からの《裏切りの工作員》により"個"の脅威にも対応可能。
《空を放浪するもの、ヨーリオン》を始めとしたリソースの獲得手段にも長け、豊富なプレインズウォーカーを擁することから中期~長期的なゲームプランも構築可能。
かと思えば《創案の火》から4ターン目時点でマウントを取る動きも備わっており、《サメ台風》と合わせて能動的な攻撃手段も兼ね揃えている。
サイドボード後はカウンターを採用する事でよりコントロールに寄せた戦い方に変化する選択肢もあり、出来ないことがほとんどない万能なデッキだ。カードプールが広がれば対処手段も増加するので、むしろ強化される傾向にある。2020年5月現在では一つ下の環境であるパイオニアでもtier1に食い込むパフォーマンスを発揮している。
余程のことが無い限り今後も高い影響力を誇るデッキだと思われるが、先日禁止カードの予告および相棒ルールに対するテコ入れが発表されたので、この内容次第では立ち位置が変化し得る。全フォーマット見ても、このデッキ以上にヨーリオンを強く使えているデッキは見当たらない。今は座して発表を待つ。
【お知らせ】来週の6月1日(日本時間該当日深夜)に最新の禁止制限告知が行われます。対象フォーマットはスタンダードおよびヒストリック、また「相棒」メカニズムについても対応を行う予定です。 https://t.co/FUohnn2Gm8
— マジック:ザ・ギャザリング (@mtgjp) 2020年5月27日
グルール・オボシュ
マナクリーチャーによる1マナ⇒3マナジャンプをテーマに据えたグルールカラーのビートダウンデッキ。《獲物貫き、オボシュ》を相棒にすることで採用できない2マナ圏の動きをマナジャンプでカバーする、非常に効率的な作り。同アーキタイプはパイオニアでも活躍している。
緑のマナブーストから赤の攻撃的なクリーチャーへ。上記で軽く触れた《炎樹族の使者》を用いるグルールアグロは、《炎樹族の使者》を始めとし《探索する獣》や《エンバレスの宝剣》を用いるなど、むしろ偶数マナ域がキーとなっている節があるので、毛色が大きく異なる。
《ゴブリンの廃墟飛ばし》はキッカーコストを支払うことで4マナの動きを担う。最序盤の土地破壊は非常に強力で、このデッキであればマナクリーチャーを経由することで3ターン目には可能になる。先手でこの動きに成功すればマナ差は4:1。ゲームの決定打になりかねない。
同リストには《銅纏いののけ者、ルーカ》+《さまよう怪物、イダーロ》のコンボギミックが仕込まれており、ルーカのマイナス能力で3マナクリーチャーを対象に取ると必ず《さまよう怪物、イダーロ》が場に出る仕組みとなっている。8/8速攻トランプルはフィニッシャーとして申し分なく、僅か5マナでこれを繰り出せるのは面白い。手札に引いてしまった場合もサイクリングでデッキに戻せるので、シルバーバレットによるリスクを極少に抑えられている点も評価できる。
また《ラノワールのエルフ》や《金のガチョウ》と言ったマナクリーチャーもマイナス能力の対象とすることで戦力に変換できるので、このデッキのルーカは単純な5マナのフィニッシャーを採用するよりもバリューが高く、冴えたやり方。
同大会における使用者はたった一人で、その一人が3位入賞を果たしている。
上記ルール改定の内容次第ではあるが、今後広がりを見せる可能性がある。
ジャンド・サクリファイス
スタンダードでも活躍する同アーキタイプのヒストリックバージョン。《大釜の使い魔》+《魔女のかまど》のギミックを中心に、《死の飢えのタイタン、クロクサ》の決定力や《パンくずの道標》のアドバンテージ能力を据え、相棒に《夢の巣のルールス》を置くことで2マナ以下のパーマネントで構成をまとめている。
ヒストリックバージョンになることでの変化は《縫い師への供給者》の存在。これを《夢の巣のルールス》で使い回すことにより山札を掘り進め、《大釜の使い魔》《魔女のかまど》《パンくずの道標》のパッケージに対するアプローチを強化。
また《タイタンたちの軛》は山札を掘るカードであると同時に《夢の巣のルールス》を使い回すためのカードでもある。
そうした肥えた墓地は《死の飢えのタイタン、クロクサ》脱出の種にもなり、デッキ全体が美しくシナジーしている。
海外の人気ストリーマーでありアリーナラダー上位の常連であるcrokeyzは直近でヒストリックをよくプレイしており、同デッキを高く評価していた。
Starting to really get to grips with Historic. 14-4 today with this Jund Lurrus and into the top 100 for the first time.
— Stephen Croke (@crokeyz) 2020年5月24日
The meta is developing:
Lukka
Winota
Field
Jund
RDW
Been most impressed by those 5 decks so far.
Decklist:https://t.co/WyRtZZn33l pic.twitter.com/CAHy01R6k8
ルールスが相棒ルール改定の煽りを受ける可能性が高いが、仮に相棒を諦めざるを得ない状況となっても、《波乱の悪魔》を用いる構造に変化させたり、ルールスそのものをメインデッキに組み込んでしまうようなやり方も考えられるので、今後も形を変えながら存続する可能性は高い。
青単テンポ
『イクサラン』期のスタンダード時代に存在した青単テンポ。カードのラインナップも当時とほとんど変わることは無く、追加されたカードも《塩水生まれの殺し屋》《厚かましい借り手》程度。変化が無さ過ぎて言及することがほとんどない。
とにもかくにも《執着的探訪》依存のデッキであり、デッキ最大の長所でもあり短所でもある。(引けた場合と引けなかった場合の差があまりに大きい)
同カードを引き入れた際の力は圧倒的で、これまでに紹介してきたハイパワーなデッキ群に肩を並べることができる。
また上記で触れたように6/1(月)に禁止改定及び相棒ルールの変更が発表されているため、影響を受けないことが予想される以上今後注目のアーキタイプ。他が弱体化することで相対的にポジションが上がる見込み。
今後について
Hooglandia Open 3はナヤ・ウィノータの圧倒的なパフォーマンスで幕を閉じたが、これにより環境定義が行われたため、メタゲームが進んでいく事が予想される。
例えば、ボロス・フェザーなどはウィノータに対し有効なデッキ。《無謀な怒り》は僅か1マナでウィノータを対処することができ、デッキのメインギミックでもあるためウィノータを見据えてデッキ構造を歪めている訳でも無く、「構造時点で強い」という理想的なメタが実現できている。
サイドボード後であれば、赤いデッキは《レッドキャップの乱闘》が採用可能。1マナを残しているだけで4マナという大振りのアクションを躊躇させることができ、実際に直撃した際はゲーム展開に大きな影響を与える。
赤くないデッキであればシンプルに《墓掘りの檻》なども有効で、こちらは同じくトップメタであるジェスカイ・ルーカにも効果が見込めることから、自身に被害が無いのであれば積極的に採用したい。
《墓掘りの檻》を使うデッキと言えば《願いのフェイ》を使用するデッキも候補に上がれる。例えばティムール・アドベンチャーであれば《厚かましい借り手》で時間を稼ぎながら《願いのフェイ》経由で《墓掘りの檻》にアクセスすることで、少なくともメインボード時点ではウィノータの能力を完封できる。
さて、このようにメタゲームが定義された後は考えることが多くあり、競技プレイヤーとしてはここからが楽しいところなのだが、何度か繰り返しているように、6/1(月)には禁止改定および相棒に関するルール変更が予告されている。
禁止改定に関しては、スタンダードと同タイミングで告知が行われることから、両フォーマットで高い影響力を持つ《創案の火》あたりが対象となるのではないかと睨んでいるが、蓋を開けてみなければわからない。
ウィノータに関しては上記の通りメタが強化されていけば相対的にポジションが落ちていくタイプのデッキだと思っているので、この段階での規制は早計な気もするが、対抗馬である《創案の火》を規制するのであればやむを得ないのかもしれない。
記事を書いている途中で禁止カード&ルール改定の予告が行われ、正直萎えたが、せっかく書いたので投稿する。「なぜ今」と思ったかもしれないが、僕が一番思っている。別の意味で。